ロック好きの大学生が集まって放課後タイムにダラダラおしゃべり! 専攻科目よりも皆さんロック史の研究に夢中なようですね!!
【今月のレポート盤】VARIOUS ARTISTS 『Solo Album』
乾いた空気が肌を刺すような冬のある日。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。小さな電気ストーブを囲んで何やら雑談を交わしているようですが……。おや、マフラーをモコモコ巻いたモコが入ってきましたよ。
弘明寺素子「オハヨー! 今日も寒いね〜」
杉田俊助「Hi! モコは最近Everyday部室に来てるよネ。学祭も終わったんだから、そろそろ引退じゃないの?」
弘明寺「ジョン君、ロッ研の辞書に引退の2文字はないんだよ!」
子安翔平「ついでにモコさんの辞書には就活の2文字もないで。ヒヒヒ」
弘明寺「むう〜!……あれ? いま流れているのってワン・ダイレクション(1D)の新作? bounceでも表紙を飾ってるもんね! 2作目にもパワー・ポップっぽい曲が入っているんだ!」
子安「何を言うとるんですか! このバンドは〈っぽい〉じゃなくてパワー・ポップそのものですわ!」
弘明寺「え、1Dがついに本格的なパワポ・バンドになったの!?」
杉田「Ha! Ha! Ha! これは1Dじゃなくてヴァリアス・アーティスツのソロ・アルバムだヨ」
弘明寺「え? ヴァリアスでソロ? どういうこと?」
子安「ヴァリアス・アーティスツがバンド名で『Solo Album』がアルバムのタイトルですわ」
弘明寺「何それ〜! ふざけてるのかな!?」
杉田「いかにもUKマナーな、なかなかクールなセンスだと思うヨ! Ha! Ha! Ha!」
弘明寺「何だかよくわからないけど、キャッチーでキラキラした素敵な曲だね!」
子安「ブリストルが誇る最高の胸キュン・パワー・ポップ・バンドが81年に発表した唯一のアルバムで、今回ボートラにレアなシングルやデモ音源を追加してリイシューされたんですわ」
杉田「ブリストルというと、ミーにとっては『Blue Lines』の新装版が出たばかりなマッシヴ・アタックとかのイメージが強いから、これはサプライズだヨ」
子安「確かにダブやトリップ・ホップとは縁遠い音やな。せやけど今年の初頭に発表されたコンピ『Avon Calling 2』を聴くと、80年前後には同地にパンクやパワポ・バンドが仰山おったことがわかるで!」
弘明寺「それはそうだよね! だって名古屋の人が全員あんかけスパゲッティー好きとは限らないもん。あ、でもモコは大好きだよ!」
杉田「アンカケスパ? 何だかBadな気配だネ……。でもやっぱりこのバンドはブリストルにしてはポップすぎるヨ!」
子安「ジョン、それは偏見やで。ブリストルはギター・ポップ視点からも重要な土地なんや。フラットメイツのメンバーが主宰していたサブウェイ・オーガニゼーションやサラ・レーベルもそうやで」
弘明寺「え、全国1千万のネオアコ信者が愛するサラもそうなんだ!」
杉田「What? 皿!? ミーはそんなレーベル知らないヨ!」
生麦 温「みんな、温かいお茶を煎れたよ〜。ところでこのバンド凄くイイね! ネオアコのような甘酸っぱさもあるけど、ジャムみたいな勢いと熱い男っぽさもあるし」
子安「まさにそうやな。それにちょいエレポップな曲もあるし、スカっぽい曲も演ってて、それがまたイイんや」
杉田「ダブやルーツ・レゲエじゃなくて、2トーン・ライクなスカっていうところがおもしろいネ」
子安「同郷のポップ・グループ一派のようなポスト・パンクっちゅうよりは、ストレートにパンクの流れを引き継いでいる感じやもんな」
生麦「青臭さがめいっぱい弾けた雰囲気は、最近だとハートブレイクスなんかに近いんじゃないかな?」
弘明寺「それもあるけど、でもこのウキウキするようなメロディーはホット・シェル・レイとかが好きなコでも絶対OKだよ」
杉田「流石はモコ、エキセントリックな意見だネ〜。ま、わからなくもないけど」
子安「いまどきのパワポ言うたらホット・シェル・レイやオール・タイム・ロウっちゅうことになるやろうな」
生麦「う〜ん、でも僕はパワー・ポップって言葉にはもっとオルタナティヴな何かを期待しちゃうんだけどな〜」
弘明寺「ねえねえ、この電気ストーブで焼き芋って焼けるかな?」
子安・杉田・生麦「(……話に飽きてきたな)」
師走に入って世間は慌しいようですが、ロッ研の連中は相変わらず呑気なロック談義に耽っているようです。そしてモコの就職活動の行方はいかに……。 【つづく】