坂本龍一+高谷史郎《LIFE - fluid, invisible, inaudible…》 (2007年)YCAM委嘱作品
Photo:丸尾隆一(YCAM)写真提供:山口情報芸術センター [YCAM]【参考図版】
「未来派」の命脈
さて、この展覧会だが、総合アドバイザーは坂本龍一だ。坂本は1986年に『未来派野郎』というアルバムをリリースしている。マリネッティの演説のサンプリングをラップのようにコラージュしたヒップポップ・チューンや、クラシックの曲をカットアップしたミュージック・コンクレート作品、様々なサンプリング音源を元に組み立てられたポップソングなど、当時最先端の電子楽器だったフェアライト「CMI」やE-mu社のサンプラーとFM音源を多用し、未来派というモチーフをポップミュージックの中にうまく溶け込ませて表現している。70年代のミニマリスト達による位相/反復の理論をポップフィールドに持ち込んだブライアン・イーノのように、異なるジャンル間をクロスオーヴァーさせることは、新たな聴衆が今まで知らなかった表現に触れることのできる機会を生む。この展示では、活動当初からアートと音楽の関係に関して意識が高かった坂本自身が関わるインスタレーションを中心に、大友良英、池田亮司、カールステン・ニコライ他、国内外20組の作家による作品を一度に体験することができる。彼のようなポップフィールドで活躍するアーティストが美術館での展示に参画することによって、美術やサウンドアートに馴染みの薄い聴衆にも新しい表現に触れてもらう機会ができたことは喜ばしい。出品作の中では、八木良太や大西景太といったデジタル世代の作品や、セレスト・ブルシエ=ムジュノの、水に浮かべられた陶器の器がぶつかり合う─インドのジャルタラングの音楽を現象で表現したような─アンビエントなインスタレーションなどは単純に感覚的に楽しめる作品だろう。また、ターンテーブルに直接関わる作品もいつくか展示される。音楽の記録媒体がレコードからCD、デジタル配信へとすでに移行している昨今、今もってターンテーブルがサウンドアートの1つの表現方法として用いられていることはとても興味深い。きっとターンテーブルやレコードは、記録媒体以上の人々を魅了する何かを持っているのだろう(2CVと同じように、私もレコードに魅力を感じる一人だ)。
池田亮司《data.matrix [n°1-10]》 (2006-09年)
© 2009 ryoji ikeda Photo: 丸尾隆一Courtesy of Gallery Koyanagi, Tokyo
この展覧会では現代の作家作品の他、ワシリー・カンディンスキー、パウル・クレー、ジョン・ケージ、武満徹などの故人による作品も展示されている。バウハウスやロシア・アバンギャルドが音に触発された作品、ケージらの図形楽譜などは、音楽とアートがかかわり合ってきたパースペクティヴを歴史的に捉えてみることもできる。それをトリガーとして20世紀に試行錯誤された数多くの歴史的な作品への興味が広がれば、体験としてはさらに豊かなものになるであろう。作品のほとんどはインスタレーションで、「見る」とか「聴く」といった単一感覚のものではなく「体感」する要素が大きい。20世紀初頭から現在までに都市文明の中で表現されてきた音楽とアートの関係性は、加速度的に親密になってきたと言える。現在、音楽やアートというジャンル以外の、ゲーム、アニメ、投稿映像、同人音楽、映画といったエンターテインメントでは、当然のごとく視覚聴覚表現が一体化している。広々とした空間でこれらの作品を五感を通して「体感」し、作品を「現象」として捉えたその感覚を基に、音楽とアートという関係性を考え直してみると、音楽とアートの関係性のみならず、それ以外の表現をも楽しく捉え直すことができるのではないだろうか。
東京アートミーティング(第3回) 「アートと音楽──新たな共感覚をもとめて」
10/27日(土)〜2013/2/3(日)10:00〜18:00(入場は17:30まで)
※月曜日休館(12/24、1/14は開館。12/25、12/28〜1/1、1/15は休館)
会場:東京都現代美術館(〒135-0022 江東区三好4-1-1) 企画展示室1階、B2階
www.mot-art-museum.jp/
出品作家
オノセイゲン+坂本龍一+高谷史郎
坂本龍一+高谷史郎
大友良英リミテッド・アンサンブルズ
(大友良英、青山泰知、Sachiko M、堀尾貫太、毛利悠子)
カールステン・ニコライ
池田亮司
武満徹
ワシリー・カンディンスキー
フロリアン・ヘッカー
八木良太
セレスト・ブルシエ=ムジュノ
ジョン・ケージ
パウル・クレー
ウドムサック・クリサナミス
大西景太
マノン・デ・ブール
田中未知・高松次郎
クリスティーネ・エドルンド
ザ・サイン・ウェーブ・オーケストラ
バルトロメウス・トラウベック
ステファン・ヴィティエロ