経験に裏付けられた確かな実力を後ろ盾に、心のトーンを紡ぎ出すヴォーカリストが待望のフィジカル・デビュー! これは本当に逸材の登場ですよ!!
15年ほどかけて日本にR&Bはすっかり定着したとも言えるし、その一方、独特な形でローカライズされたそれをそう呼んでいいのか躊躇う人もいるだろう。マーケットの動向やレーベルの判断によって〈R&B〉の形容を厭う人もいたし、逆の場合もあった。加えて、アーバン・ミュージックの定型が世界的に拡張された(そろそろ揺り戻しが来るけど)昨今では、広い意味でのJ-Pop市場においてそういった志向が理解されるのかどうか、という問題もある。
まあ、どんなラベルが貼ってあってもステレオタイプで判断する前に聴いてもらえるなら、どっちでもいいのだが。
で、何を言いたいのかというと、このELLIEはどのように解釈されても構わない、強度の高い音楽性を芯に持った逸材だということだ。R&Bシンガーを夢見て十代で渡米した彼女は、クラブでのパフォーマンスやLAのスタジオでの武者修行を通じてレコーディングやソングライティングを学び、ファンクマスター・フレックスら海外DJの来日ツアーにもたびたび同行。活動の拠点を日本に移した2010年に『Sugar X'mas/ BLACK $UGAR』でデビューしている。以降も配信リリースを重ねつつKentaro TakizawaやMr.Low-Dの客演で注目を集めてきたのだが、今回届けられたファースト・アルバム『Heartone』では持ち前の多面的な魅力が一気に開花した感じだ。
まず注目は、すでに配信ヒットを記録しているセルフ・プロデュースのミディアム・バラード“たった一度だけ”。表題などから勝手に大仰な着うた系バラードを連想する人もいそうだが、決して歌いすぎない彼女の絶妙なトーンは、そういった要請にも応えつつ、抑制を効かせた温かみのあるものとして美しく響く。セルフ・プロデュース曲では初期m-floを思わせる繊細なスロウ“Again”もいい。一方、TinyVoiceのSUNNY BOYによるリード曲“Brighter Day”は90年代UKマナーの爽快感を湛えた前向きな一曲。ハウス・リミックスで知られるヘザー・ヘッドリーのカヴァー“I Wish I Wasn't”は、Kentaro Takizawaと再タッグを組んで王道のディープ・ハウスを快活に聴かせたり、楽曲ごとのアレンジと歌唱の七変化ぶりで飽きさせない。白眉は、GIPPERを迎えてスムースなニュー・ジャック調に挑んだ“Ridin' on Me”。この瑞々しさによって新しい音色が今後も奏でられるのが楽しみになる。それほどのものです。
▼関連盤を紹介。
左から、Kentaro Takizawaの2011年作『LOVE AND HAPPINESS』(dive in! disc)、Mr.Low-Dの2012年作『THE TYRANT』、GIPPERの2012年作『GIP'UP』(共にKSR)