宏実 『HONESTY』
心を鮮やかに照らす虹色の歌声——3度目のHONESTYから生々しく溢れ出る、彼女の真情とは
「『MAGIC』を作り終えた時に、今度はもっと自分自身の内の部分というか、人には言えない部分だったりを表現した作品にしたいと思っていたんですね。ファースト・アルバムの『RAINBOW』が20代前半からの宏実の総集編みたいな作品だとしたら、セカンドの『MAGIC』はサウンドでもいろいろ挑戦をしたし、〈攻めのアルバム〉になっていたと思うんです。今回はそれを経て、自分自身の内側に攻めるというか、外に向いてた矢印を自分に向けたような作品になりましたね」。
およそ22か月ぶりのアルバムについてこう説明する宏実。その魅力的な歌声を〈レインボー・ヴォイス〉と形容されてきた彼女だが、前作『MAGIC』はその七色の輝きをライティングやアレンジにも転化したカラフルな作品だった。自然体で臨んできた彼女にとっては大きな挑戦だったわけだが、その後の心境の変化は新しいアルバムの内容にも反映されることになったという。
「私にはこういう面もあるんだよって思ってもらいたい部分だったり、当時の自分の理想ではあったんだけど、いまは自分がやりたいようにやるより、お客さんが喜んでくれるものをよりストレートにやりたいっていう気持ちが強くなっているのかもしれないですね。実生活でもそうなんですけど、昔より肩の力が抜けて、別にカッコ良く見せようとかを求めなくなって……いまはすごく自然な自分になれてるので、そこが新作には出てると思います」。
そんな心持ちを反映したのか、ニュー・アルバムのタイトルは『HONESTY』——リスナーに対する誠実さとも解釈できるが、同時にそれは彼女が人に求めたい誠実さのことでもある。「いろいろな形のお別れがありました……(笑)」という前作以降の期間は、恋愛の話だけではない、人と人との関わり方を改めて見つめ直す機会にもなったようだ。「簡単に繋がることはできても、心を許せる人って簡単に見つかるもんじゃない」という思いの込められた壮大なオープナー“I NEED YOU -愛されたい-”から、その真摯なもどかしさは聴く者の心を強くノックするはずだ。同曲は人気のバラード“愛されたい”(2009年)の続編になるが、その2曲を聴き比べれば彼女の綴る言葉が率直さを増していることに気付くかもしれない。
「今回は歌詞もパーソナルになりすぎないようにしました。あと、前まではメロディーを自分のなかでカッチリ決めて、そこに歌詞をはめていく作業だったんですね。最近は頭のなかでリリックといっしょにメロディーを作っていくやり方になったので、自分的にはやりやすくなったし、早くなりましたね」。
同曲を手掛けたT-SKをはじめ、サウンド面では馴染みのU-Key zoneや村山晋一郎、UTA、初顔合わせとなる千晴らが好サポート。ミックステープ『TEQUILA, GIN OR HENNY』以来の合体となるSIMON×SKY BEATZとの“ONE LOVE”もあるが、コラボという意味ではHISATOMIを迎えて彼女には珍しいレゲエ・ナンバーに仕上がった表題曲に注目したい。
「レゲエは難しかったです。正直(笑)。こっちはきれいに収めたがるし、私に合わせてもらいすぎるとただのきれいな曲になっちゃうし。その兼ね合いは大変だったけど、すごく楽しかったですね。アルバム・タイトルを先に決めてたんですけど、私は本音が言えないって歌って、彼は彼で誠実さを歌ってくれて、まさに“HONESTY”って曲だな、と思って」。
他にも「日本っぽさというかキャピった部分を出したくて、すごいふざけてるんですけど、他の人が歌ってる姿が想像できない(笑)」と語るコミカルな“不意打ちLOVE”や、「これ不倫ソングですか?とか言われる」というのも頷けるアダルトなスロウ“最後の「愛してる」”などなど、さまざまな角度からさまざまな姿の愛が描かれた『HONESTY』。愛とか恋とか文字にすると陳腐に思う人もいるかもしれないが、だからこそ歌でしか伝わらないものもある。そして宏実はそれを歌っているのだ。
▼宏実の最近の客演作を一部紹介。
左から、GIPPERの2012年作『GIP' UP』(KSR)、Natural Radio Stationの2012年作『Message』(FARM JP)、Aliceの2012年のシングル“X LOVERS”(ソニー)、DIORI a.k.a. D-ORIGINUの2011年作『SPREAD YOUR WING』(NEXT)
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2012年11月22日 19:30
更新: 2012年11月22日 19:30
ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)
インタヴュー・文/出嶌孝次