ラファエル・ロサノ=へメル《パルス・ルーム》2006
金沢21世紀美術館蔵
撮影:福永一夫
「このままでは日本はまっすぐな道ばかりになってしまう。
道というのは本来曲がりくねっているものなんだ。そこから生きる知恵が生まれるんじゃないか」
金沢21世紀美術館で9月15日から開催されている展覧会「ソンエリュミエール、そして叡智」。
村上隆、草間彌生、奈良美智、日比野克彦、パトリック・ブラン、ジェイク& ディノス・チャップマン、ぺーターフィッシュリ ダヴィッドヴァイス、木村太陽、鈴木ヒラク、梅田哲也、ラファエル・ロサノ=へメル、Chim↑Pom、ピピロッティ・リストらの内外の作家の作品と、ゴヤといった19世紀の巨匠の作品も同列に展示されている。
「ソンエリュミエール」(Son et Lumière)とはフランス語で「音と光」。1950年代フランスで開催された文字通り音響と照明効果を駆使したスペクタクルショーのこと。古い建物や史跡に色鮮やかなライトアップやナレーションや音楽でいわれを物語るもの。
ここまでの説明から光と音をテーマにした展示を想像していたのだが、このタイトルは目くらましで、その背後にはもう一段階別の意味が隠れている。
おそらくそのキーになって来るだろう作品がチラシの表紙ともなっている19世紀の画家・フランシスコ・デ・ゴヤの作品と、もうひとつ、展覧会と同名のフィッシュリ ヴァイスの作品なのだと思う。
人間世界の欺瞞と欲望や悪をえぐり出すゴヤの作品『ロス・カプリチョス』。《いったい、誰が信じるだろうか!》とジェイク&ディノス・チャップマンの作品『ディノスとアドルフ』、《乳母っ子》とChim↑Pomの作品《SUPER RAT (Showcase)》がそれぞれ一緒に展示されている。
『ディノスとアドルフ』はアドルフ・ヒトラー本人が描いた絵に描き足したもの。「凡庸な」風景画の中に風景にひそむ怪物のようなモチーフを書き添え、おぞましい仕上がりになっている。
またChim↑Pomの《SUPER RAT(Showcase)》は、渋谷に「スーパーラット」と呼ばれる駆除剤に耐性のついたネズミが生息するという話を基に、実際にネズミを捕獲する行為を撮影した映像と、そのネズミを剥製として展示している。原発事故の放射性物質の中で生きていく自分たちのモチーフとしている部分もあったという。19世紀、20世紀、21世紀。これらが同じ展示室に並列されているところにこの展覧会の趣旨が見えてくる。
そして、タイトルソング的に位置づけられたぺーター・フィッシュリ ダヴィッド・ヴァイスの作品《Son et Lumière – Le rayon vert(音と光-緑の光線)》。
展覧会全体のタイトルともなっている「Son et Lumière」や「Le rayon vert(太陽が緑色に見える現象)」という壮大な装置を使った壮大なスペクタクル作品を思わせるタイトルにして、そこにあるのはコップが転がりカラカラと音をたてながら緑色の光をキラキラ反射させている何の変哲も無い素材を用いた小さな作品。
このどこか人をくったような作品と、ゴヤの絵が語ろうとしている「近代」への懐疑的視線がこの展覧会の骨格なのだろう。
ゴヤの作品が描かれた頃に成立した近代市民社会。その近代市民社会が実現したスペクタルショー「ソンエリュミエール」は歴史的な建造物や史跡をきらびやかな音と光で演出したが、皮肉な事にそれは同時に人々の目を表層的な華やかさに向け、様々なそれぞれのドラマのある場を画一化したものに見せてしまう。