ディスカヴァー・アフリカ
坂本龍一が総合監修を務め、音源と豪華ブックレットによって世界の音楽文化を独自の切り口で紹介するシリーズの第11弾は「アフリカの伝統音楽」がテーマ。アフリカには多くの国があり、ひとつの国の中にも数えきれない民族がいて、それぞれに多様な伝統を受け継いでいる。それを1枚のCDにまとめるのは困難な作業だが、本作は民族音楽学者の塚田健一氏をアドヴァイザーに迎え、そこに坂本の感性が加わることによって、これまでにない視点をもったユニークなコンピレーションに仕上がっている。
使用された音源は、オコラやユネスコといった民族音楽の老舗レーベルのもののほか、塚田氏などが現地で採取した貴重な録音も含まれる。大まかに分ければ、前半が歌もの中心、後半が器楽曲中心という構成で、アフリカ伝統音楽の多様性をうまくすくいあげているが、坂本の好みもあるのだろう、全体的に素朴なもの、ミニマル・ミュージックに通じるような楽曲が多い印象だ。逆に、一般の人がアフリカと聞いて連想するであろう賑やかな祝祭の音楽や、勇壮なドラム・サウンドなどは少なめで、ステレオタイプなアフリカのイメージを覆そうとする意図も見える。西アフリカの伝統を語るときに欠かせないグリオ系の音楽や南アフリカの合唱などは個人的には入れてほしかったが、多彩なアフリカ音楽を1枚にまとめるとなると、ある程度選者の嗜好が反映されてしまうのは避けられない。これはこれで、坂本龍一ならではの選曲として楽しめる。
また、今回のテーマは「伝統音楽」に絞られているため、当然ながら、ここではポピュラー音楽は選ばれていない。現代のアフリカを理解するには、ポピュラー音楽は不可欠なので、本作を聴いてアフリカ音楽に興味を持ったら、ぜひともポピュラー音楽にも手を伸ばしてほしい。
ブックレットの対談も示唆に富んでいて、伝統や文化というものについて考える上で参考になる発言が多い、濃厚な内容だ。