アイドル・グループ・BiSとの合体ユニットでライヴを行なったり、初音ミクとの〈共演〉アルバムを制作したり……いまのJOJO広重の弾けっぷりは、見ていて実に痛快だ。今年8月には七尾旅人や小室哲哉などが出演した〈FREE DOMMUNE 01〉にも出演し、オーディエンスの度肝を抜いた。そんな彼が率いるノイズ・ユニット=非常階段は、地下から音楽シーンを掻き回している台風の目と言えるかもしれない。
非常階段は79年にウルトラ・ビデのメンバーでもあったJOJO広重を中心に京都で結成された。いまでこそ〈ノイズ〉と言えばひとつのジャンルとされているが、〈大音量で即興であること〉を指標としていたこのバンドは、楽器を叩き壊すことなど朝飯前、放尿や汚物散乱などなど観る者を不快、唖然とさせるステージで話題を集めた。しかしながら、それはただ暴力的で野蛮なものではなく、主に広重が好むプログレッシヴ・ロック、フリージャズ、前衛音楽を吸収した末に、新しい音楽を真摯に提唱したもの。82年、非常階段として初の作品『蔵六の奇病』を発表したまさに〈その時〉から、彼らの活動は時代をジワジワと動かしていく。メンバーは広重とT・美川(INCAPACITANTSでも活動)ら一部を除いて流動的だったものの、秋田昌美(MERZBOW)が参加したり、スターリンやS.O.Bなどと共演したりと人脈を拡張。84年には広重がインディー・レーベル、アルケミーを設立し、BOREDOMSの山塚アイによるハナタラシ、名古屋のザ・原爆オナニーズ、女性バンドの赤痢をリリースするなど、関西を中心としたアンダーグラウンド・シーンの成熟に一役も二役も買っていくのだった。
また、90年代以降の広重はソロでも作品を発表。自身のルーツであるジャックスや森田童子などの影響が窺える歌モノ作品にも挑戦したり、近年は穂高亜希子や見汐麻衣ら女性シンガー・ソングライターを集めたオムニバス・アルバムをプロデュースするなど、さらに裾野を広げる活動が目立つ。また前述の通り、バンドではアイドルやボーカロイドとのコラボなど〈異種格闘〉にも積極的だ。そして最近は『蔵六の奇病』の30周年記念盤をはじめ、アルケミーの作品群がリイシューされ、書籍「非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE」前後から俄に活気付いている若い世代からの再評価も頂点に達したと言える。とはいえ、広重の嗅覚はデビュー当時からブレがない。おもしろいと思えることに次々と踏み込んでいく。非常階段とJOJO広重の活動は、いまなおそうした鋭い感受性と貪欲な行動力によって成立しているのだ。
非常階段のその時々
非常階段 『蔵六の奇病-30TH ANNIVERSARY EDITION-』 レヴェイユ(2012)
初作発表から30周年を経ての記念盤で、最新リマスタリングはもちろん、未CD化のカセット『極悪の教典』からの3曲を収めたディスクとの2枚組。当時のライヴを集めたもので、破壊的な演奏は一聴すると単なる初期衝動のようだが、不気味な空気のなかから立ち昇るノイズは初期ソニック・ユースにも似て知性的だ。
JAZZ非常階段 『メイド・イン・ジャパン 〜live at Shin-juku Pit Inn 9 April, 2012』 doubtmusic(2012)
JOJO広重、T・美川、JUNKO、コサカイフミオといった基本メンバーで、坂田明や豊住芳三郎というジャズ畑の実力派と共演した2012年4月のライヴ盤。6人の阿鼻叫喚スレスレなプレイが醸し出す混沌具合は、電化時代のマイルス・デイヴィスにも負けないほどスリリングだ。
JOJO広重 『死神に出会う時のように -JOJO'S WORLD-』 レヴェイユ
JOJO広重のソロ・ワークスからの楽曲を中心に、ライヴや新録曲も加えた2枚組の編集盤。タイトルが絶叫される“生きている価値なし”が彼の神髄を伝える一方、“上を向いて歩こう”やジャックス“サルビアの花”などの新たに収録されたカヴァー曲には、広重の叙情的な側面が集約されている。
非常階段 『初音階段』 U-Rythmix/YOUTH(2013)
初音ミクと非常階段のコラボ盤。東陽一監督の映画「やさしいにっぽん人」の挿入歌でもある緑魔子“やさしいにっぽん人”やJAGATARA“タンゴ”をはじめとしたカヴァーから、ノイズをバックに初音ミクが朗読するナンバーまでミスマッチを極めるが、針で足裏を突いた時のような〈痛気持ちいい〉奇妙な快感が生まれる。