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カジヒデキ

連載
360°
公開
2013/02/28   18:35
更新
2013/02/28   18:35
ソース
bounce 352号(2013年2月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/村尾泰郎


カジヒデキが音楽で案内するスウェーデン……と、さまざまな国々の冬!



カジヒデキ_A



ネオアコ界の貴公子、なんてふうに紹介されることも多いカジヒデキ。昨年リリースされた『BLUE HEART』は、ネオアコがパンクの焼け跡から生まれたことを思い出させるような、ポップさのなかに骨太なアティテュードを感じさせる力作だった。それから9か月で届けられた新作『Sweet Swedish Winter』は、彼の第二の故郷とも言えるスウェーデンの冬をテーマにしたアルバム。前作とは気分を変えて、軽やかなタッチで北国の冬景色をスケッチしたような歌が、ふんわりと心地良い。

「自分で立ち上げたレーベルからの第1弾だった『BLUE HEART』は、カジヒデキの決定版みたいな作品になったという自信があって、しばらくオリジナル・アルバムは作らなくてもいいかな、と思ってたんです。でも創作意欲はすごいあるから、〈じゃあ、軽い感じのミニ・アルバムでも〉と思って、いろいろ考えて出てきたテーマが〈スウェーデンの冬〉だったんです。スウェーデンは95年に初めて訪ねて以来、何度も行っている大切な国だし、それにこれまで夏っぽい曲が多かったんで、冬をテーマにするのもおもしろい気がしたんですよね」。

そして、「気が付いたら、あっという間に10曲出来ていた」という本作。ゲストとして、いまもカジのバック・バンドに参加している古川太一(元Riddim Saunter)の新ユニット=KONCOSや、初共演となる曽我部恵一BANDが参加しているが、ソフト・ロック的な柔らかさを持つ前者と力強いバンド・アンサンブルを聴かせる後者、それぞれの持ち味が作品に広がりを与えている。

「KONCOSが自分たちの地元・帯広をテーマにして作ったアルバムを聴いて、すごくいいな、と思ったんです。スウェーデンをテーマにしたのは、それにインスパイアされたところもあって、彼らにはぜひ参加してもらいたいと思いました。ソカバンは去年、対バンをした時に彼らの演奏を観たんですけど、もう圧倒されてしまって。今回は時間がないところをお願いして1日で3曲録ったんです。曽我部君は良いグルーヴが出るまで何度も細かく詰めていって、そこがソカバンの魅力なんだって思いましたね」。

KONCOSと共演した爽快なアルバムのタイトル曲は、カジがお気に入りのスウェディッシュ・バンド、フリーホイールのカヴァー。そして、ソカバンと共演したメランコリックな“イルミナム・ソング”にはゲスト・ヴォーカルにエッグストーンのペール・サンディングが参加するなど、スウェディッシュ・テイストがしっかり織り込まれているのも本作の重要なポイントだ。そこで〈スウェディッシュ・ポップ親善大使〉に質問。スウェディッシュ・ポップの魅力ってどんなところ?

「アコースティックでメロディアスな感じ。打ち込みの曲でもそうなんですよね。温もりを感じさせるというか。北国の人たちって、普段寒い環境で育っているだけあって、温かみを大切にしている気がするんです。厳しい寒さの反動としてのメランコリックな雰囲気もある。北海道出身のKONCOSの曲にもそれを感じるし、そういうテイストは今回のアルバムでも大切にしたところですね」。

伝統的なスウィーツ、セムラ。冬の風物詩、サウナ。そのほか、スウェーデンの思い出がたっぷり歌詞に盛り込まれた本作は、「今年いちばん早いクリスマス・ソング(笑)」とカジが語る“99%のクリスマス”で幕を閉じる。その歌詞には、ビーチ・ボーイズやNRBQ、スフィアン・スティーヴンスなど、彼のお気に入りのアーティストの名前が次々と登場するが、そういうところも含めて、このささやかなアルバムには愛が満ち溢れている。「あまり肩に力を入れないで、プレゼントみたいな気持ちで作った」という今作は、愛する国や大好きな音楽への心のこもったギフト。2013年のクリスマスにはまだちょっと早いけど、こんな贈り物をもらったら、誰でも笑顔になるに違いない。



▼カジヒデキ関連の近作を紹介。

左から、カジヒデキの2009年作『STRAWBERRIES AND CREAM』(felicity)、同2012年作『BLUE HEART』(BLUE BOYS CLUB/AWDR/LR2)、カジヒデキとリディムサウンターの2010年作『TEENS FILM』(felicity)

 

▼『Sweet Swedish Winter』に参加したアーティストの関連作品。

左から、曽我部恵一BANDの2012年作『トーキョー・コーリング』(ROSE)、エッグストーンの楽曲が収められた2008年のコンピ『Detroit Metal City vs Shibuya City〜渋谷系コンピレーション』(citys)