そしてワーナー・ブラザースを語る上で欠かせないのが、御大イーストウッドである。1971年の『ダーティハリー』から2012年の『人生の特等席』まで、なんと40年以上も俳優と監督両方でワーナーと共に歩んできたのだ。御大に対する感謝の気持ちをワーナーと映画ファンは忘れてはならないだろう。そのイーストウッドの才能を引き継ごうとしているのが『アルゴ』を監督したベン・アフレックである。単に俳優兼監督という類似で〈後継者〉と語られているのではない。ベンの卓越したストーリーテラーとしての才能と、誰かの脚本でも面白い話であれば、それを映像化してみようという姿勢があることが、イーストウッドとの類似点であり、それが明らかであるから誰の目にも「ベンの監督としての行先が本当に楽しみだ」となるのである。
1979年にイランで起きたアメリカ大使館占拠事件を背景にした『アルゴ』の優れている点は、カナダ大使館に隠れた6人のアメリカ人たちを助けようとするCIAと、それを手伝うハリウッド側、そしてイランで助けを待つ6人と、見事にバランス良く(撮影トーンを変えて)描きだしているところだ。まさに『ミスティック・リバー』で3人の男たちの生き様を描き分けたイーストウッドの演出技法に匹敵するものが伺えるのである。トニー・メンデスの原作本は、どちらかというとCIA視点のドキュメント色が濃いため、いかに映画化が見事であったかが読後の感想である。そして、映画ファン心理をくすぐるのが、1979年~80年にかけてのハリウッドの雰囲気。まずオープニングのワーナー・ブラザースのロゴにヤラれてしまう。まさに1979年当時のワーナーのロゴだ(正確には1972年から改名した、ワーナー・コミュニケーション時代の)。その次が、今やワーナースタジオのアイコンにもなっている撮影所内の給水塔だ。これには「バーバンクスタジオ」と記されている。そう、この時代はワーナーのみではなく、コロムビアと共同でこのスタジオを使っていた事実に沿っていて、そうした時代考証が完璧なのだった。
記念すべき90周年に『アルゴ』が発売されるということは、来るべきワーナー100周年にむけての、才能の引継ぎが完了したことを確認出来るということだ。こんな喜ばしいことはないのだ!
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発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ