80年代ベルリン、解放のためのリ・デザイン
現在、デザインというものを大量生産、大量消費に奉仕するのではなく、より個人の必要性や環境への合理性に照らして考える動きがある。3Dプリンタやレーザーカッターが普及し、パソコンから部材を出力し、組立てることが可能になった現在、なんでも自分で作るという考え方は、将来、より多くの人びとによって実践されることになるだろう。ひいては、それが社会をリ・デザインする、ということは、ヴィクター・パパネックの「生きのびるためのデザイン」から40年にわたって唱えられてきたことでもある。本書は、そうしたリ・デザインのための書である。しかし、それらは「リサイクルでもリノベーションでもなく、エコロジーの発想によるものでも」なく「何らかの経済合理的な動機からは遠く離れた」(本書、小山明による序文)ものになっているのが特徴だ。
80年代ベルリン、それは、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレなどの、旧西独の新音楽によって記憶されるだろう。それまでのドイツのポピュラー音楽を特徴づけるものだった、英米ロックを受け継ぎつつ独自に確立されたスタイルから、クラフトワークに代表されるような電子音楽までが、80年代になると、それまでのフォーマットを否定し、捨て去り、異形の音楽となって再生した。旧東独の領土内に隔絶された、陸の孤島となった西ベルリンという都市が、政治的にも経済的にも空隙となり、しかし、その人口流出を防ぐために、徴兵免除など若者への特別措置を行ない、それゆえ、新しい芸術文化を醸成することになった。本書は、そうした80年代の西ベルリンのオルタナティヴ・カルチャーの、そして、壁の崩壊以前、チェルノブイリ以後のリアリティを胚胎した状況のドキュメントである。なるほど、こうした土壌から、だからこそ、ノイバウテンやマラリアや、そして、本書でも執筆しているディー・テートリッヒェ・ドーリスが生まれたのだな、と強く納得させられた。