キーワードとサブテキストで紐解く『さめざめ問題集』
「SEXという言葉は環境によって曲を流すことが難しかったり、お話するのが難しかったりして、自分が想像した以上にいろんな壁にぶち当たったんですね。でも、このタイミングでラジオや有線で初めてさめざめを聴いて好きになってくれた人もいたので、シングル第1弾としてこの曲を出した勇気は報われたかな、と思ってます」。
昨年12月にシングル“愛とか夢とか恋とかSEXとか”でメジャー・デビューを果たした笛田さおりことさめざめ。彼女は当時をそう振り返る。
「自分で書きたくて書いている内容とはいえ、さめざめの曲はタイトルにインパクトがあったりして、他のアーティストさんと比べると、ちょっと入り口が狭いのかな、と(苦笑)。ただ、〈愛とか夢とか〉もちゃんと聴くと良い曲なんだっていうことを知っていただけた実感はあったので、ここで以前の曲も入門編として出して、もっといろいろな方に聴いていただけたらと思って」。
そうして届けられたベスト・アルバム『さめざめ問題集』には、センセーショナルなタイトルと一途な恋心が表裏一体となった“コンドームをつけないこの勇気を愛してよ”をはじめ、ヴォーカルを再録した既発の5曲と2つの新曲(+特典音源)が収められている。「さめざめにしては毒の少ないキラキラ・ポップ」を想定して作られた“ぐるぐる禁断ラブ”、「男性のベルトのバックルをカチャカチャ外すのって、宝箱の鍵を開けるような感覚があるんですよね(笑)」という独自すぎる視点を元に妄想を膨らませた歌謡ロック“ズボンのチャック”と続き、本編のラストはドラマティックな激唱を聴かせるピアノ・バラード“あたしがいなくなれば”。「すごく落ち込んでるときに聴いて、思いっきり泣いて、〈ああ、泣いたらお腹すいちゃった〉って(笑)、いろんな感情を浄化してもらえれば」と笛田は語るが、性に対して奔放だろうが、危険なほどの内省ぶりを吐露していようが、彼女がこれまで綴ってきたのは、どれも何かに対して真面目に向き合う女の子の心情だ。多くの女性がひた隠しにする本音をポップにさらけ出すセンスは、今回新たにお目見えした2曲にもはっきりと表れている。
まず本作の冒頭を飾る“みんなおバカさん”は、ブレイクを入れながら徐々にフレーズをすり替えるギターと、モッド調のオルガンがいなたさと粋の狭間を突き進むアップ・チューン。〈バカバカバカバカもうバカばっか〉というサビも鮮烈だ。
「昨年の4月か5月頃に出来た曲ですね。その頃は、失恋して落ち込んでる人から相談を受けたり、私自身もインターネット上の匿名希望さんたちの声を目の当たりにした時期で、いろんなジャンルの怒りが爆発してて(笑)。〈もう、みんなバカなんだから!〉ってサビの通りに思ってたんですけど、相手も私のことをバカだと思ってるんだろうなって気付いたときに、〈ああ、みんなおバカさんなんだ〉っていう結論に落ち着いて。最終的には、〈おバカさんなりに、みんな当たって砕けてがんばろう〉みたいなことを歌ってます(笑)」。
そしてもう1曲は、言葉を転がすような導入の歌い回しがファニーな“ぶりっこぶりっこ”。表題によく似合う80sアイドル・ポップ調で、過剰にラヴリーなナンバーだ。
「〈ぶりっこ〉っていう言葉を使った曲を作りたいとずっと思っていて、サウンドもアイドルっぽい感じを意識して(笑)。歌詞の内容としては、以前〈この女、ぶりっこしてんな? やだやだ〉って思った人がいたんですけど、自分も格好良い男の子が目の前にいると上目遣いになったり声色が変わったりしてるんだなってことに気付いたとき、これも“みんなおバカさん”と同じなんですけど、女性はみんな、男性に対してぶりっこをしてしまうものなんだなと。だから最初は否定してるんですけど、サビでは〈ぶりっこしたっていいじゃないですか〉って(笑)」。
真正直だからこそ生々しい題材を軸に組み立てられる物語と、同時代的なモードとはあえて距離を置いた歌謡性の高いサウンド。そんな特性を通じ、さめざめは普遍性へと手を伸ばす。
「言いたいことはズバッと言いながらも言葉遊びを入れたりとか、歌詞だけでも読み応えがあるというか、おもしろいと思ってもらえるような曲を作っていきたいです。それでどこまで勝負できるか、みたいなところはありますね」。
▼さめざめの作品。
左から、さめざめの2012年のシングル“愛とか夢とか恋とかSEXとか”(Colourful)、2012年作『スカートの中は宇宙』(samezame)