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小沼純一『映画に耳を』

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o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/05/15   12:21
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text:村尾泰郎

映画を〈聴く〉楽しみ

映画館のメイン・スピーカーはスクリーンの後ろにあり、スクリーンには無数の穴が空いていて、そこから音が通るという仕組みになっている。初めてそのことを知った時、自分は映像と同時に音を“見ている”のかもしれない、と不思議な気がした。かつてゴダールは、自身の映画製作会社を〈ソン(音)〉と〈イマージュ(映像)〉を融合させた造語〈ソニマージュ〉と名付けたが、映画とは音と映像が密接に結びついたもの。小沼純一『映画に耳を』は、映画を注意深く“聴く”ことで、これまでおざなりにされがちだった映画の重要なエッセンスと、その魅力を教えてくれる。

本書は大きく4つの章に別れているが、映画のために作られた音楽、クラシックやジャズなど、すでにある曲が映画で使われること、といった比較的意識しやすい音楽の効用を入り口にして、音楽ドキュメンタリーなど音楽をテーマにしたもの、そして、声や自然音などサウンドスケープと映像の関係も考察していく。といっても、何も難しい哲学が語られるわけではない。ほとんどのテキストは雑誌やサントラのライナーのために書かれたもので、著者の眼差しはつねに誠実さと愛情をもって作品を丁寧に見つめていく。どのような曲がどのように奏でられていくのか、それをつぶさに記述していくあたりは、論じること以上に、映画を感じることの喜びが伝わってきて、著者の映画(音楽)体験を共有するような楽しみがある。

『8 1/2』『未来世紀ブラジル』『マンハッタン』『黒猫・白猫』『ヴィニシウス〜愛とボサノヴァの日々〜』『アンナと過ごした四日間』、そして、当然のごとくゴダールの諸作など、100本近い作品が音という視点で語られるが、読み進むにつれて耳がスクリーンに向かって開かれていく。それぞれ独立したテキストの集まりなので、気になる作品から読み進めるのもいいだろう。ちなみに僕が思わず最初に読んだのは『ゴジラ対メカゴジラ』。「メカゴジラが吐く光線は、テリー・ライリーの1970年代のオルガンそっくりの音がする」という箇所を読んで、思わず映画を見直し/聴き直したくなった。