ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第12回は、一聴するとヘタウマ、だけど実は高い音楽的センスとスキルを持ち合わせた、今後要注目の2人組、恋のパイナップルをご紹介
先日、知人から1枚のCDを受け取りました。帯には〈しましま/恋のパイナップル〉とだけ。アーティスト名は〈しましま〉? それとも〈恋のパイナップル〉? 果たして正解は――〈恋のパイナップル〉でした。おお、なんと人を喰ったユニット名!
〈作詞・作曲、ボーカル、ギターを手がけるみすちゃんと、トラック作りや楽器演奏をするゆみっこによる、女子2人組の雑食系ドリーミー・ポップス・ユニット。武蔵野美大卒業後の2008年に結成〉――というのが彼女たちのウェブサイトに記載されているプロフィール。これだけを見ると昨今よくある宅録系ユニットというイメージでしたが、実際に音を聴いてビックリ。想像以上にアレンジも音作りも実に緻密でよく出来ているのです。しかも、メロディーがすごくイイ。
が、しかし、この恋のパイナップル、略して〈恋パナ〉は、照れもあるのかそうした技術を外にはまったく見せていないのです。それどころか、素人っぽさを前面に出してそのテクニックやセンスを隠してしまう。いかにも可愛らしく危うい女の子ユニット、という感じで。だから、最初はきっと90年代のメンボーズやストロオズなどを思い出す人もいるでしょう。あるいは、その舌足らずなツイン・ヴォーカルからは、最近だと大森靖子あたりを想起する人がいるかもしれない――一聴したところではいわゆるヘタウマ系の宅録ポップ、といったところなのです。
ところが、よく聴いてみるとわかる。このバンドは実はギターがキモだと。例えば恋パナにとって2作目にあたる『しましま』、1曲目“ハニカミヤハニイ”の最初のギターを聴いて私はぶっ飛んでしまいました。ジョン・フェイヒー並に音響的だ!と。アコースティック・ギターの奥行きあるエコーのかけ方、これはもうプロの仕事(もちろんプロだけど)。音が四方八方に拡散されていく様子がヘッドフォンなどで聴くとよく伝わってくる。歌は幼児性を感じさせる頼りなさげなヴォーカルなので、そこで一気に耳が歌へ引き寄せられてしまうけれど、ギターの音処理には相当なこだわりがあるように見受けられるのです。あるいは、まるで「みんなのうた」で流れていても不思議じゃないほどキャッチーな3曲目“トラジティー・フルーツ”のスライド・ギターは多少なりともスワンプ・ロックをかじった者じゃないとできないようなさりげない芸当。とにもかくにも、多様性あるギターのアレンジと奏法が、一聴ではヘタウマなタッチの音楽に広がりをもたらしていることがよくわかるのです。
他にもピアノやキーボード、ヴィブラフォン、ウクレレ、ドラムなどの楽器を2人で分担(多少お手伝いしているサポート・メンバーもいるようです)。結果、例えば昔で言うとドリー・ミクスチャーやシャッグスのような、ちょっとだけフワフワとトリップできちゃいそうなブロークン・ポップといった仕上がりを見せているわけです。さらに、恋パナは巧い。確証はないけど、きっとポップスの何たるか、録音の何たるか、楽器の何たるか……なんていうのを頭のどこかで無意識に理解しているに違いないと思えるほど、とってもスマートな感じがするのです。
そんな2人をLABCRYの三沢洋紀がたいそう気に入ったようで、いまは全面的なバックアップを名乗り出ているそうな。三沢と言えば、最近出た都市レコードの新作のプロデュースもしていたし、そもそも90年代からサイケデリックでちょっとタガの外れたような歌モノをしっかり作品にできる力量を持った、シーン有数のアーティストでありプロデューサー。『しましま』は6曲入りですが、2008年に出た初作『ゆれるハンドブック』以来となる新たなフル・アルバムへの期待は高まるばかりです。こういう一見ヘナヘナ、でも感覚的にも研ぎ澄まされていてセンスもあり音楽もよくわかっている――そんな女の子ポップス、もっともっと出てきてほしいものです……って、実はもうライヴハウスにはいっぱいいますよね?