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イトー・ターリ『ムーヴ あるパフォーマンスアーティストの場合』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/07/02   13:16
ソース
intoxicate vol.104(2013年6月20日発行号)
テキスト
text:三宅美千代

日本のフェミニズム・アート史としても貴重な一冊

本書は、国内外の第一線で活躍してきたアーティスト、イトー・ターリによる初の自伝的エッセイである。イトー・ターリはラテックス・ゴム素材をもちいて、表皮や皮膚へのこだわり、セクシャリティなどをテーマとするパフォーマンスを行なってきたことで知られる。パントマイムをはじめた学生時代や、単身渡欧した頃の話、パフォーマンスの手法を獲得して以降、発表された作品と現在までの活動を写真と文章(対英訳付)で振り返る構成になっている。

70年代以降のアーティストの足跡をたどっていくと、テーマとの距離やアプローチが少しずつ変容してきていることに気づく。レズビアンとしてカムアウトした 《自画像》を含む、セクシャリティを扱った一連の作品では、「私」自体が焦点化されていたが、最近の作品では日本軍「慰安婦」問題、沖縄の米軍基地と性暴力、原発事故と放射能の問題への応答が試みられ、「私」は他者や奪われた声の存在に耳を傾け、行為するための場となっている。

以前、個人的にお話をうかがう機会があったとき、パフォーマンス・アートの魅力について「観客は傍観することは許されない。触発しあったりぶつかりあったりできるところ」だと語り、オノ・ヨーコの《カット・ピース》に触れたのが印象的だった。オノが衣装を切り取るハサミを手渡し、観客に出来事の目撃者であるのみならず、いかに行動するのかを問うたように、イトー・ターリにとってのパフォーマンスもまた、観客を当事者として問題に引き入れる真剣勝負の場なのだ。

また、本書を読むことは各時期の日本のアート・シーンに出会い直すことでもある。とくに日本のフェミニズム・アートを牽引したafaやWANの活動、アジアや欧米の美術界との積極的な交流についても語られており、フェミニズム・アートやソーシャル・アート、アジアの現代アートなどに関心のある読者にもおすすめの一冊だ。

EXHIBITION  INFORMATION
『アートエキシビション Rainbow No Nukes 「ボクらの世界には、原子力発電所もホモフォビアも、いらない」』
○7/6(土)〜15(月)10:00〜18:00 ◇初日14:00~  ◇最終日~17:00 ◇木曜日定休
会場:ランプ坂ギャラリーギャラリーランプ3

http://www009.upp.so-net.ne.jp/ccaa/jp/