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公開
2013/09/11   17:59
更新
2013/09/11   17:59
ソース
bounce 358号(2013年8月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/佐藤一道


あの頃のムームが戻って来た……って本当に?



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アイスランドが生んだ不思議な電子音楽ユニット、ムームが4年ぶりとなる久々のオリジナル・アルバム『Smilewound』を完成した。昨年、初期のレア音源集『Early Birds』をリリースした彼らだが、その際に「膨大なアーカイヴを聴き返すことでみずからの原点を再確認した」と中心人物のオルヴァル・スマラソン(以下同)は語る。

「古いDATを引っ張り出して、本当にたくさん聴いたんだ。で、その多くの曲がシンプルな電子音を用いたものだったから、今回のアルバムが結成当初の頃に戻った感覚なのは、そういう部分も反映されているのかな」。

もうひとつ、バンドにとって原点を見つめ直す出来事が起きた。それは初期メンバーである双子姉妹の片割れ、ギーザ・アンナ・ヴァルティースドッティルが正式に復帰したのだ。新作でのメイン・ヴォーカルをシラと分け合う彼女は、今年6月の〈Hostess Club Weekender〉でも歌に踊りに演奏にと大活躍! 彼女の復帰がアルバムにもたらした影響はあるのだろうか?

「わからないけど、あるかもしれないね。ただ、それって凄く無意識的なもの。作っている時はわざわざ〈原点に戻ろう〉という気持ちはなくて、仕上がった作品を振り返ってみたらそうなっていたんだよ」。

曲作りはレイキャヴィックにあるオルヴァルの自宅で行われ、彼とグンネル・ティーネスの2人でアイデアを出し合いながら練っていくという工程に変わりはない。ただ今回は楽器の数がいつもより少ないぶん、ゲスト・ミュージシャンもあまり多くないようだ。そう言われてみれば、賑やかな印象の前2作と比べていくぶんシンプルなエレクトロニカ・アルバムに。一方、先行シングル“Toothwheels”など一部の曲は〈ムーム版R&B〉と表現したくなるような出来で、昨今のポスト・ダブステップやインディー・ダンスからの影響も感じられる。

「確かに普通のムームの曲調とは違うかもしれないけれど、最初のアルバムや『The Ballad Of The Broken Birdie Records』という2000年のEPで“Toothwheels”に近い雰囲気の曲を演っているんだ。だから新しいことに挑戦しつつも、初期に立ち返っているという両方の面があるのさ」。

〈過去〉と〈未来〉を同時に眺めるという姿勢。これがノスタルジックでありながらも未来的な響きを有している、新作の魅力の根幹になる部分かもしれない。

そういえば彼らは昨年、映画「Jack & Diane」のサントラでカイリー・ミノーグとコラボを果たしている。これはもともとクラブのシーン用に発注された曲をメンバーが勘違いし、エンディングのバラードとして作ったところ、カイリーに気に入られて共演が実現したのだとか。こうした偶然って実はムームのなかでも重要な要素なのでは?

「うん、とにかくすべてに対してオープンでいることが大事だよね。ものを作るプロセスではいろいろなことが同時にカオスとなって起きる。それをあるがままにしておいて、そこからベストなものを引っ張り出すことが大切なんだよ」。

混沌のなかからふと偶然に誕生した奇跡的な美しさ──キャリアを重ねようとも彼らの奏でる音から新鮮な響きが失われないのは、常にこうした哲学に基づいているからなのだろう。


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