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【第25回】――クルミクロニクル

連載
ZOKKON -candy floss pop suite-
公開
2013/12/04   17:59
更新
2013/12/04   17:59
ソース
bounce 361号(2013年11月25日発行)
テキスト
インタヴュー・文/出嶌孝次


新しい空色に向かって羽ばたく、大阪の純真



201312_クルミクロニクル_A



さまざまな出来事の、季節の積み重ねがクロニクル。今年の春先に初めての路上ライヴを敢行、新しい4月が訪れる頃には早耳なリスナーの間で噂を広げていた女の子がクルミクロニクルです。大阪に住まう高校2年生。頻繁にライヴがあるわけでもなく、音源はジャケもない白盤のCD-Rのみでしたが、それでもタワレコで流通されるという注目ぶりは異例だったでしょう。それからまた季節は巡って——スウィートセブンティーンまでもう少し、待望のファースト・アルバム『クルミクロニクル』が早くも登場です。

「なんか変な感じです……家族とも言ってたんですが、〈別人みたい〉です。アーティストさんみたい!」とまだまだ初々しさを隠さない彼女ではありますが、デビューのきっかけとなったオーディションの志望動機は「同じことを繰り返すだけの毎日から抜け出したかったんです。歌いたいっていうのがいちばんの理由なんですけど」とハッキリしたもの。音楽に向かう意識は昔から強かったようで。

「小学生の時から合唱の伴奏を弾いたり、大好きです! 好きな曲の楽譜買ったり耳コピして弾いたり、メロディーだけの歌も作ったりしてましたね。(リスナーとしては)PUFFYさんが大好きでした。〈カニ食べ行こう〜〉って空手の素振り的なのやってました。昔から好きな方はaikoさんです。いまは、さよならポニーテールさんとかバンドが好きです! ステキな方ばっかりで。共演させて頂いたアーティストさん皆好きになっちゃうし……すごいです、アーティストさん」。

そのような本人の純真さもさることながら、クルミクロニクルが大きな注目を集めた要因のひとつは、何のギミックでもなく、シンプルな楽曲そのものの良さにあります。CD-Rの時点で存在していた曲のうち、“輝け空色少女”や“クルリクル”はEDM的な煌めきと騒々しさを明快に盛り込んだ爽やかなエレクトロ・ポップ。“午前11時”の転調などに薫るサムシングに胸が締め付けられる人もいるかと思いますが、それはそれ。今回のアルバムもその可憐にしてダンサブルな美点に惜しみなくフォーカス、本人もいちばんお気に入りだというモア・エッジーな“MAKE NEW WORLD”など全11曲が並んだ、最高に素晴らしいフューチャー・ポップ・アルバムになっています。

「仰る通り、最高に素晴らしいです。こういう曲調の曲はいままで聴いたことがなかったんですが、それでも好き!と思えるって最高に素晴らしいからだと思います。実を言うと、曲はもっと評価されてもいいんじゃないか、って思います。私の歌で足引っ張ってる気がするので申し訳ないです……」。

んなことはない。「夏の終わりって感じの曲なので歌ってて少し切なかった」という“twinkle linkle line”の微かな哀愁味や、“Rainy Starry Night”のリリシズムは彼女のクセのない歌声でこそ光るもの。もちろん、屈託のないポジティヴさが愛らしい“ススメ! ススメ!”もまっすぐな唱法の映える逸曲でした。詞世界のピュアで前向きな女の子もクルミ本人を投影したものかと思いきや、「(自分とは)全然違います。プロデューサーさんからの応援メッセージとして受け取って歌ってます」とのこと。なお、詞曲に直接タッチはしていないものの「いつか形になれば嬉しい」と歌詞は書き留めたりしているようなので、今後はそちらも楽しみなところです。

ともかく、最高の処女作を手にして、クルミのクロニクルはまだ最初のページが綴られたばかり。さらなる飛躍に期待しましょう!

プレッシャー感じます。体重が落ちていく一方(笑)。私の予想では2〜3年でここまで来た!って感じになるだろうなって思ってたので。容姿とか内面、パフォーマンスを早く磨かなきゃ!ってすごく焦ります。でも私がめざす所は、いまよりもうちょっとだけ上なので絶対上手くなってやるって思います! ゆっくりだけど!」。



▼文中に登場するアーティストの作品を一部紹介。
左から、aikoのベスト盤『まとめII』(ポニーキャニオン)、さよならポニーテールの2013年作『青春ファンタジア』(エピック)