メキシコシティ在住のライター・長屋美保が、メキシコのローカルな音楽情報をお届けする新連載がスタート! 第1回は、ディック・エル・デマシアードの個展やボカフロハの著書出版イヴェントなど、クリスマス・ヴァケーションを前に続々と開催された企画をレポートしてくれます!
¿Qué Onda Güey?……あ、唐突にすみません。このたび、連載を始めさせていただくことになった、メキシコシティ在住のフリーライター、長屋美保です。〈ケ・オンダ、ウェ~イ?〉とはメキシコのスラングで、〈調子はどうだい、メ~ン?〉みたいな意味です。
この連載では、毎回、メキシコの文化や日常から浮き上がってくる音楽の姿について、伝えていきたいと思っています。ちなみにタイトルの〈JapoChilanga(ハポチランガ)〉とは、〈メキシコシティナイズされた日本女性〉を意味する造語で、つまり筆者のあだ名です。そこには、すっかりメキシコ人化して、タコスを1日3食かき込むように見せかけておいて、実は日本人らしい繊細さも持ち備えているという意味が込められているのです(誰も信じてくれませんが)。
現在、メキシコはクリスマス目前。ここはカトリック教徒が国民の8割以上なので、その行事の関係でクリスマスが12月16日から1月6日まで続くんですよ。長っ!
ヴァケーションもこの時期から取る人たちが多いので、その休み前にイヴェントが目白押しで、正直ヘトヘトです。
クリスマス・デコレーションされたメキシコシティ中心部の大広場、ソカロ
そんななか、12月7日にメキシコシティ内でおもしろいイヴェントが、一気に3つも開催されたのでレポートします。
まず、ダウンタウンにも程近い、下町のサンタ・マリア・ラ・リベラ地区にある、メキシコ国立自治大学付属チョポ美術館(Museo Universitario Del Chopo)に行きました。ここは80年から都市のアンダーグラウンド文化の発信をモットーに、現代アートの展示、ライヴ/パフォーマンス、文芸イヴェント、映画の上映を行っています。
1905年に建立された歴史的建造物を近代的に改修したチョポ美術館
ちょうどこの日オープニングだったのが、メキシコシティのパンク・ムーヴメントの生き字引、アルバロ・デトール“エル・トルコ”のアナルコ・パンク(アナーキズム思想によるパンク)のファンジン・コレクションや、貴重な資料を一挙に展示した〈Kaos D.F.ctuoso(カオス・デフェクトゥオーソ)〉。 D.F.(メキシコシティの略称)とDefectuoso(欠陥のある、という意味)をかけたタイトルで、メキシコシティは東京と同様、世界最大級の都市なのですが、欠陥だらけ。それでも、愛しいカオスというのが伝わるネーミングであります。
〈Kaos D.F.ctuoso〉会場風景
展覧会のために会場で配られていたファンジン。メキシカン・パンクの歴史を追った内容
エル・トルコが79年から2013年までコレクションしたファンジンのなかから、選りすぐりの170冊が展示されています。
170冊のメキシコのパンク・ファンジンとエル・トルコ
ファンジンのコレクションの周りには、かつてコンピューターが普及していない頃、超アナログ方式で編集を行っていた様子を垣間見るような資料が展示されていました。
まさにオールド・スクール、DIYなファンジン原稿。カッコイイ!
彼が会場にいたので、話を訊かせてもらいました。
「写真を切り貼りしたコラージュによって誌面をデザインしたもんだよ。インターネットの発達していなかった頃は、海外のバンドとも郵便でやりとりした。これはそのときの原稿なんだ」
エル・トルコはメキシカン・パンクの歴史書、「Mexico Punk」の著者のひとりであり、80年代は数々のアナルコ・パンク・バンドのドラマーとして活躍していました。コレクションしたファンジンのなかには、彼が出版したものも多いのだとか。
エル・トルコ、パブロ・C・エルナンド・サンチェス著「Mexico Punk」
「パンクに出会って僕の人生や考え方が変わった。それは、自主管理、つまり政府や権力に頼らない生き方というものを実践し、理不尽な社会に対しての抵抗を表現するものなんだ。アナーキストをテロリストと勘違いする人たちが多いけれど、アナーキストとは暴力を表明するものではない。むしろ警察は意思を表明する僕たちを暴力によって圧し、政府とは金で動くものである」
「うちの娘も、ハードコア・パンク・バンドのメンバーなんだよ」と語るエル・トルコ
ちなみに今回の展示は、チョポ美術館の〈Fanzinoteca(ファンジノテカ)〉という、メキシコシティのファンジンのコレクションを毎回展示していくシリーズ展の一環だそう。ファンジン文化を通して都市の歴史や社会を探求するというコンセプトらしいので、次回はどんなファンジンが登場するのか楽しみです。