YOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュンが、最近気になっている映像作品を紹介する連載がスタート! 第1回は「ローラーガールズダイアリー」で思い出した、USはオースティンでの甘酸でほろ苦なメモリーを発端とするささやかな復讐劇について……
皆様、突然始まりました〈月刊 PLAY ALL!!!!!!〉。この連載では映像作品について語ったり、時に語らなかったり(語ってください! from編集部)、突然友達の話になったりとか、そんな予感がしてなりませんが、2000年代後半からbounce本誌でやらせてもらっていた超極私的なディスクを紹介する〈四の五の言わずにタイトゥンアップ〉以来となる久しぶりの連載、ひとつお付き合いのほど宜しくお願いいたします。
で、いきなり思い出したのだが、ドリュー・バリモアの監督デビュー作で、テキサスを舞台にした傑作青春映画「ローラーガールズ・ダイアリー」を観ていて、〈あっ、ここは!〉というシーンがあった。というのも主演のエレン・ペイジ嬢演じるブリスが、地元からバスでオースティンの街へ繰り出し、そこで降り立った場所っていうのが〈LUCY IN DISGUISE WITH DIAMOND〉という店の向かいだったからだ。ほんの一瞬、本当にチラッとしか映らないが、歴代エンターテイナーたちが手描きペイントされたインパクトのあるこの店の外観を見て、オースティンでの思い出が蘇ってきた。
オースティン。いまでは〈SXSW〉が行われる場所として認識している人も多いであろう、テキサス州でもリベラルな空気に満ち溢れた街。ここを初めて訪れたのは、90年代にやっていたバンド・FRUITYが、フロリダからサンディエゴまで2週間以上かけて敢行した、全エピソードが泣き&爆笑の壮絶なアメリカ・ツアーの時だ。97年、当時24歳、人生初の海外旅行。メンバー4人(そのうち一人は当時中学生!)と友達2人の計6人が、フロリダにて15万円で買ったボロボロのセダンに乗り込んで、真夏のアメリカを演奏しながら横断するという無茶な旅。そのたびの途中でこの地を訪れたわけだが、オースティンと言えば、〈何と言ってもビッグ・ボーイズの地元でしょ!〉っていうのが当時のメンバー間の共通認識だった。クール&ザ・ギャングを世界一格好良く演奏するパンク・ファンク・バンドに、自分たちは滅茶苦茶影響を受けていた。ビッグ・ボーイズという字面に少しでもピンときたアナタは、いますぐタッチ&ゴーからリリースされている2枚のコンプリート・ディスコグラフィー盤を探しにタワレコへ猛ダッシュ、もしくはオンラインでゲットしてほしい。
そんなわけで、フロリダから何日もかけてこの街にやってきたわれわれは完全に浮き足立っていた。ついにビッグ・ボーイズの地元に来た! 当時はインターネットもなかったので、MAXIMUM ROCK'N ROLL誌の別冊レコード屋ガイド(※1)とガソリンスタンドで買った地図を片手に地元のレコード屋を探しまくる。あーでもない、こーでもないと言いながらどうにかレコード屋に辿り着いた。肉体的にも精神的にも疲弊しきっていたわれわれだったが、この時間帯だけは楽しかったと記憶している。そしてビッグ・ボーイズの地元で彼らのレアなオリジナル盤を見つけて狂喜するわれわれ――いやはやアメリカまで来た甲斐があったな、とメンバー誰しもが思っていたはずだ。
(※1)正式タイトルは失念。インターネットなき時代、サンフランシスコの超老舗パンクジンによる、実際にはDIY実践ガイドで、レコード屋だけでなく海外ディストリビューターのコンタクト先が掲載されていたりして大変お世話になった一冊
しかし、事態は一変する。その夜のわれわれは最悪だった。対バン相手のギター・アンプを壊し、思いっきりキレられて修理を命じられる。また、そのアンプを安全な場所へと、故障寸前の車に乗せてわざわざ駐車しに行った先の駐車場で、ピカピカのスポーツカーと接触事故を起こした。警察が来るのを1時間近く待っていると、パカパカと馬に乗った警官が現れ、国際免許を提示したら、〈ハ?〉という顔をされる。そして途方に暮れたわれわれの目の前で酔っぱらったパンクスが滝のようなゲロを吐く――そんなことが全部1時間以内に起こった。ただでさえこれまでもトラブル続きだったのに、さらなるトラブルの波状攻撃にバンド内の空気は最悪となる。次の日の早朝、あんなに大好きだったビッグ・ボーイズの街・オースティンから逃げるように立ち去った。その後もさらなるトラブルに見舞われ、われわれは完全に疲弊。アルバムを出す、出さないのケンカの後、帰国してすぐに解散した。とにかく、忘れようにも忘れ難いビターな思い出のある街、もう二度と行くことはない街、それが自分にとってのオースティンだった……これまでは。