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(第1回)オースティンへのささやかな復讐

ささやかな復讐劇の始まり

連載
サイトウ“JxJx”ジュンの月刊PLAY ALL!!!!!!
公開
2013/08/14   18:00
更新
2013/08/14   18:00
テキスト
文/サイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)


ささやかな復讐劇の始まり



それから10数年が経って、ひょんなことから先輩であるチャーベ君(松田“chabe”岳二、CUBISMO GRAFICO FIVE)の粋な計らいもあり、〈SXSW〉のタイミングでオースティンへ2度ほど再訪することになる。そんななか、前述の〈LUCY IN DISGUISE WITH DIAMOND〉に足を踏み入れる機会があった。近くの通りに車を停め、そのド派出な外観に導かれるように店内へ。いったい何屋なのか……扉を開けるとそこにはマイケル・ジャクソンの赤い革ジャンや、プレスリーのジャンプ・スーツなどが所狭しと何着も置いてあるという、日本ではなかなか考えられないパーティー用コスチューム専門店だった。ハンズやドンキのパーティー・グッズ売り場をゴリゴリのアメリカ仕様でハードコア化させた感じ、と言えば伝わるだろうか。



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〈LUCY IN DISGUISE WITH DIAMOND〉のあるこの通りはおもしろい店だらけだった



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〈LUCY IN DISGUISE WITH DIAMOND〉の店内。とにかく濃い



実は、最近筆者がライヴで被っているボサボサの麦わら帽子、通称〈カリプソ・ハット〉はこの店で発見した。昔のカリプソのレコード、例えばロード・インヴェーダーのジャケットなどでその存在を知ってからもう何年も探していたが、なんせ正式名称がわからないのでネットで調べても売っているところがちっとも見つからない。〈麦わら帽子〉〈ストロー・ハット〉で検索しても、結果は当然普通のストロー・ハットしか出てこない(正式名称はビーチ・コマー・ハットというらしい)。途方に暮れていた矢先、まさか偶然入った店の隅っこで山積みになってるこの帽子を見つけた時には、〈うわ! こんな所にいたのか!〉と思わず叫んでしまった。なるほど、コスプレという切り口から考えれば案外辿り着くのが早かったのかも。アメリカのパーティー文化の底力、そしてこんな店が存在するオースティン恐るべし!なんて、他人からしたらどうでも良いことをテキサスにあるコスプレ屋の片隅で独りごちていた。さらに言うと、独りごちている姿を同行者に見られていた。その同行者とは何を隠そう10数年前に自分といっしょにオースティンで酷い目に遭った、FRUITYの元メンバーであるオークラ君(現在は東京・代々木上原にあるセレクトショップ〈12XU〉のオーナー)だ。



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カリプソハット from オースティン、テキサス



実は、その旅におけるメインのミッションは〈SXSW〉での演奏だったが、同時にオークラ君と自分は裏テーマとして〈10数年前に逃げるようにして去ったこの街を普通に楽しんでみる〉というささやかな復讐劇を展開することにしたのだ。ということで、まずはレンタカーに乗って、かつて事故った駐車場で無事に駐車をキメる儀式から始めた(笑)。それから、川を渡ってローカルの集まるエリアへ。古着屋、アンティーク屋、楽器屋にレコード屋、インディペンデントな店が軒を連ねるこの街の風情はビッグ・ボーイズのメッセージである〈Start Your Own Band〉さながらであった。あの頃みたいなスリリングさはまったくないけど、ボロボロのセダンにすし詰めになっていた自分には見えていなかった景色がとにかく楽しい。



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〈END OF AN EAR RECORDS〉、最高のレコード屋のひとつ



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〈END OF AN EAR RECORDS〉にはティム・カー御大の絵画が雑にバシバシ飾ってあった



〈END OF AN EAR〉というレコード屋には、何と壁に元ビッグ・ボーイズのギタリストであるティム・カー(※2)直筆の絵がこれでもかとクリップで無造作に留めた状態で飾ってある。この街でかのバンドの息吹を全身で感じ、感動した。また、〈I LOVE VIDEO〉という超巨大なインディー・レンタル・ビデオ店もまた凄い。店名も十分にインパクト大だが、まず店員がパンクスとオタク。そして品揃えは新作から過去の名作はもちろん、VHSオンリーの作品、〈Something Weird Video〉(ザックリ言うとグラインドハウスもの専門レーベル)のコーナーがあったりと超マニアック。日本映画も充実しているし、AVコーナーもヴィンテージ作品のオンパレードだ。そして壁にはDVDを借りパクした輩の名前が〈WALL OF FAME〉としてパッケージと共に飾られているという、何ともハードコアなレンタル・ビデオ店だった。極めつけはレジ横の柱だ。アメリカの大手レンタル・ビデオ・チェーン〈BLOCKBUSTER〉の会員証が何十枚もバキバキに割られてタイル状に張り巡らされ――そんな店、日本では考えられない。〈何なんだこの街は! やっぱり最高だったんじゃないか!〉と運転しながら心の中で歓喜の声を上げていた。
(※2)ビッグ・ボーイズ後はさまざまなバンドを経て、現在は画家としての活動も活発。最近だと〈STEREO SKATEBOARDS〉のデッキに作品を提供していた