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映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』

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公開
2014/01/27   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text : 佐藤由美


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©EL DESEO D.A.S.L.U.M-39978-2012



墜ちながら/墜ちていく アルモドバルならではのオチ!?

作品タイトルは、めくるめくハイライト・ショー(!)シーンに流れる、ソウル・グループのポインター・シスターズ、1982年のヒット・ソングに由来。「コントロールを失う寸前よ、そしてこの感覚が好きなの」と歌うサビ部分が、ペニンスラ航空2539便の危うい行く末を暗示している。またもや主題を象徴する選曲に、命賭けてますな、監督!

スペイン語の原題、『ロス・アマンテス・パサヘーロス』。直訳すると、「ゆきずりの恋人たち」といったところか。名詞パサヘーロスには「乗客たち」の意もあるから、このいかにもペドロ・アルモドバルらしい、思いっきりタガの外れたラブコメ、毒気たっぷりの空中ショーにふさわしい。

まず、離陸直前の地上職員役で、ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスが登場。『ライブ・フレッシュ』(97年)、『オール・アバウト・マイ・マザー』(98年)、『ボルベール〈帰郷〉』(2006年)、『抱擁のかけら』(09年)と、多彩な役柄に挑んできたペネロペ・クルス。かたや、『セクシリア』(82年)で映画デビュー。『マタドール/炎のレクイエム』(86年)、『欲望の法則』(87年)、『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(88年)、『アタメ』(89年)と立て続けにタッグを組み、前作『私が、生きる肌』(2011年)で22年ぶりに、古巣アルモドバル映画へ戻ってきたアントニオ・バンデラス。濃いドタバタ劇の序章に、いきなり贅沢なカメオ出演というわけだ。 当機は、マドリードのバラハス空港を飛び立ち、一路メキシコシティへ……と思いきや、どうも雲行きが怪しい。某かの機体トラブルか!? 一見スマートな機長と副機長、ビジネスクラス担当CAら(02年作『トーク・トゥ・ハー』で介護士を演じたハビエル・カマラほか、芸達者揃い)の言動にも、常軌を逸した不穏な気配が……。

異常事態を察知し、うごめき出すビジネスクラス席のクセモノ搭乗客たち。私には超感覚が備わっている、死の匂いが判ると、予知語りを始める自称・処女(『ボルベール〈帰郷〉』の妹役、ロラ・ドゥエニャス)。かなりの有名人らしき、クレーマーの女帝(80年作『ペピ、ルシ、ボン その他大勢の女の子たち』、82年『セクシリア』や『オール・アバウト・マイ・マザー』等に主演したセシリア・ロス)。さらに銀行頭取、落ちぶれ俳優、メキシコ人の自称・警備アドバイザーなど。

クセモノ乗客をなだめるべく、3人のオネエCAは獅子奮迅のサービス(?)に奔走。ダンス・ショーで気を紛らわせようと努め、妖しいカクテルをふるまい……危機的状況に加え、酒精の薬効あらたか。舌の根のゆるんだ乗客らは、それぞれが抱える秘密を暴露し始める。とまぁ、予告はここまで。あとは、お楽しみにとっておこう。



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©EL DESEO D.A.S.L.U.M-39978-2012



この最新作を手がけるにあたり、監督の脳裏に浮かんだのが、コメディ映画の先達、社会風刺に長けたスペインのルイス・ガルシア・ベルランガと、ビリー・ワイルダー作品だったとか。そして、この映画を「スクリューボール・コメディの影響を受けた作品」と語る。その名のとおり野球の変化球種から派生した、変人だらけの不条理コメディを指し、1930~40年代のハリウッドで流行ったスタイルだそうな。3人のCAの言動を、アルモドバルは、「まるでマルクス兄弟のようだった」とも述懐している。

なるほど、お得意の「劇中劇」こそ忍ばせていないものの、コメディ映画へのオマージュという形の伏兵が存在したか! 落ちぶれ俳優氏の、精神疾患に苦しむ恋人(『トーク・トゥ・ハー』の劇中劇に出演したパス・ベガ)と、彼女の携帯電話を拾ってしまう女性(『私が、生きる肌』の娘役だったブランカ・スアレス)。ここにも歴史的コメディ映画と呼応する、密かな連携があったようだ。

オープニングは、ペルー版クンビア編曲で《エリーゼのために》。68年以降に絶大な人気を博した、ロス・デステージョスの演奏だ。当バンドの成功をきっかけに、ペルーではゆうに100を越すクンビア・バンドが出現し、後のアンデス風味を加えた「チチャ」と呼ばれるトロピカル・ダンス音楽ブーム期へ移行していく。ほかにも、ボサ調メキシコ定番曲の挿入や、エンドロールで80年代色を匂わせる、英国発メトロノミーの楽曲《ザ・ルック》を採用。

エログロ・ナンセンス要素ぎっしりの混沌・旋回状態を、さりげなく現スペインの経済状況に喩え、タブーへの突っ込みを入れるなど、きつーいアルモドバル流の毒気は、随所にちりばめられているのだった。

ところで、ひとつ気になるのが、機体に記された愛称「チャベーラ・ブランカ」号の謎。ともに女性の名だが、おそらく「チャベーラ」は、監督が愛した名歌手、チャベーラ・バルガスへのオマージュだろう。では「ブランカ」は誰? 深紅ドレスがお似合いの美人女優、ブランカ・スアレスへの讃美?それとも、ダンス場面の振付師、ブランカ・リーへの謝辞?? ま、一観客の果てしない妄想は、これくらいにしておくとしよう。



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映画『アイム・ソー・エキサイテッド!』

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:カルロス・アレセス/ハビエル・カマラ/ラウル・アレバロ/ロラ・ドゥエニャス/セシリア・ロス/ブランカ・スアレス/他
配給:ショウゲート (2013年 スペイン 90分)

◎1月25日(土)新宿ピカデリーほか   全国ロードショー
©EL DESEO D.A.S.L.U.M-39978-2012

http://excited-movie.jp

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