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SCHOOLBOY Q 『Oxymoron』

連載
POWER PUSH
公開
2014/03/19   18:01
ソース
bounce 365号(2014年3月25日発行)
テキスト
文/高橋芳朗


SchoolboyQ_A



これは2014年のUSヒップホップ最初の大きな山場であり、今後のシーンの行方を占うとても重要な局面でもある。映画「エンド・オブ・ウォッチ」の舞台にもなったLAきっての重犯罪多発地帯サウスセントラル育ちの27歳、スクールボーイQのニュー・アルバム『Oxymoron』。ラップ・ゲームの流れを変えた2012年のマイルストーン『Good Kid, M.A.A.D City』によって一躍時代の寵児となったケンドリック・ラマーと同じトップ・ドウグ・エンターテイメント(TDE)に所属し、そのケンドリックやジェイ・ロック、アブ・ソウルらとヒップホップ・グループ=ブラック・ヒッピーを組む注目のラッパーが、いよいよメジャー・フィールドに打って出る。

スクールボーイQというと、昨秋アメリカのヒップホップ誌「XXL」がブラック・ヒッピーをカヴァー・ストーリーに起用した際、表紙の〈Kendrick Lamar & Black Hippy〉なる見出しを不服として「俺は別にケンドリックと契約しているわけじゃない」と苦言を呈していたのが印象的だったが、そのフォト・セッションでケンドリックと共に中央に構え、当時すでにケンドリックに続くニ番目の刺客としてメジャー・デビューが決定していた彼にはきっと、〈自分こそがブラック・ヒッピー/TDEのエース・ラッパーである〉という強い自負心があったにちがいない。実際、今回の『Oxymoron』をもってケンドリックと並んでクルー最多となる3枚目のアルバムを作り上げたQは、過去2作のチャート・アクション(2011年の『Sebacks』と2012年の『Habits & Contradictions』は、いずれも配信のみながら全米R&B/ヒップホップ・チャートで最高25位まで上昇した)や“Hands On The Wheel”という決定的なクラシック(Pitchforkの〈2012 The Top 100 Tracks〉で39位、Complexの〈The 50 Best Songs of 2012〉で12位に選出されている)を残している実績からいっても、ケンドリックと肩を並べるブラック・ヒッピー/TDEの二枚看板のひとりと位置付けていいだろう。

こうしたQに対する期待値の高さを裏付けるように、2月25日にリリースされた『Oxymoron』は発売初週で13万9,000枚を売り上げて全米総合チャート初登場1位を獲得、Spotifyでの再生回数は330万回に達して2014年の最多記録を更新するに至っている。『Oxymoron』は表面的にはストレートなギャングスタ・ラップ・アルバムに映るかもしれないが、〈撞着語法〉を意味するタイトルにほのめかされている通り、Qの愛娘ジョイ(通常盤のジャケットを飾っている彼女は〈Fuck rap, My daddy's a gangsta〉と言い放つオープニングの“Gangsta”など、アルバムの随所で登場する)を矛盾の象徴に据えてストリート・ライフを描いた内容はある種のギャングスタ・ラップ批評になっていて、そんな視点の新しさが今回の飛躍的な好成績(すでに過去2作の累計セールスを超えている)に結び付いているところもあるのだろう。ゲストにブラック・ヒッピーの盟友たち、ファレル・ウィリアムス、タイラー・ザ・クリエイター、2チェインズ、レイクォン、コラプト、シュガ・フリーらを迎え、ケンドリックの『Good Kid, M.A.A.D City』とはまた別の角度からLAのダークサイドを巡っていく新しいラップ・オペラの傑作『Oxymoron』は、2014年いっぱい続くTDEのリリース攻勢(レーベルのアナウンスによると、4月から9月にかけてSZA、アブ・ソウル、ケンドリックの新作を予定しているほか、ブラック・ヒッピーの初アルバムも年内のリリースに向けて調整を進めているようだ)に一気に弾みをつけることになりそうだ。



PROFILE/スクールボーイQ


86年生まれのラッパー。父親が軍属だった関係でドイツに生まれ、両親の離婚によって幼い頃にLAへと移住。12歳で地元のギャング構成員として活動し、ディーラーとして生活を送る。21歳で投獄されたのをきっかけにラップを始め、2008年にミックステープ『ScHoolboy Turned Hustla』を発表。その後トップ・ドウグと契約し、2011年のファースト・アルバム『Setbacks』、翌年の『Habits & Contradictions』がいずれも高い評価を得る。エイサップ・ロッキー“PMW(All I Really Need)”やマックルモア&ライアン・ルイス“White Walls”といった客演曲やブラック・ヒッピーでの活動も話題を呼ぶなか、このたびニュー・アルバム『Oxymoron』(Top Dawg/Interscope)をリリースしたばかり。

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