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FACT 『witness』

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公開
2014/03/12   17:59
更新
2014/03/12   17:59
ソース
bounce 364号(2014年2月25日発行)
テキスト
文/高橋智樹


〈世界で通用する音〉から〈世界を獲りにいく音〉へ──自身に対するカウンターを繰り返してきたバンドが、またもや〈最高傑作〉を更新!



Fact_A



そもそも前作『burundanga』の時点から、メロディック・ハードコア/スラッシュ・メタル/エレクトロニカなど多彩な要素が溶け合った〈FACTサウンド〉の、〈メロディーを軸とした再構築〉の予兆はあった。だが、その完成後にAdam(ギター/ヴォーカル)が加入し、トリプル・ギター&ツイン・ヴォーカルを含む6人編成として生まれ変わった彼らによる約2年ぶりのニュー・アルバム『witness』は、間違いなくFACT史上最高のメロディーの強度、そしてバンド・アンサンブルによるスケール感を獲得した作品だ。彼らの音楽を語る際に特徴として挙げられてきた〈変幻自在なアレンジ〉〈予測不能な曲展開〉といったポイントは、もはやその壮大なサウンドスケープのなかのごく一部でしかない。それぐらいの位相変換が、この最新作では起きている──そんなことを、冒頭の“new element”を聴いた瞬間に実感した。本作は、それくらいの快盤だ。

もちろん、彼ら特有の緻密な構築性や驚きに満ちたアレンジメントは、今作でも随所で活かされている。例えば、タイトル曲でエモーショナルに噴き上がる熱唱&ギターの音像が、メランコリックなアルペジオと共に静謐な風景へと塗り替わっていくドラマティックな展開。例えば“I hope I'm wrong”における、ストレートな8ビートのサビと中盤のプログレ的な7拍子パートとの鮮烈なコントラスト。例えばFACTの電子音楽サイドをより表に出す別名義=co3で見せた才気を結晶化させたような“2-1”。例えば、爆走ハードコアがデス・メタルの如き重厚かつ厳粛な結末を迎える“disclosure”——しかし、アルバムを完成させたメンバーが今作を〈パンク・ロック〉と形容していた、というエピソードからもわかる通り、ここから何より色濃く滲んでいるのは、ハードコア/パンクの獰猛なまでの肉体性だ。

トライバルなグルーヴと重轟音リフが織り重なって生まれる“ape”の強烈な躍動感。奮い立つ衝動をそのまま音に置き換えたような、ハイパーなパンク・サウンドが雄大な地平を描き出していく“miles away”の昂揚感。カオティックなビートとギター・フレーズに〈Your teen confusion/Is just an illusion(お前の10代の混乱は/ただの妄想でしかない)〉というパワフルな歌で明確なヴェクトルを与え、聴く者を目映いくらいの開放感のなかへと連れ出していく“devil's work”のダイナミズム。それらが渾然一体となって、途方もない輝きと強さに満ちたFACTの〈いま〉をくっきりと浮かび上がらせている。

〈Adamの加入〉という今回のような大きなトピックがなくとも、これまでも聴き手に驚きをもたらすような変化を作品ごとに示してきたFACT。しかし、それらはノープランな迷走や向こう見ずな冒険などではまったくなく、常に音楽的な理想を追い求め、己を鍛え磨き上げた末の必然的な結果だった。早い段階から〈世界で通用する音〉を鳴らし、海外でのレコード・デビューやツアーを経て、〈世界を獲りにいく音〉へと確実に進化を遂げた──本作には、そんな6人の足跡が余すところなく凝縮されている。



▼FACTのMVとドキュメンタリー・フィルムを収めたDVD「001」(maximum10)

 

▼2009年に連続リリースされたFACT監修のコンピ・シリーズ。
左から、『Pentagon. 1』『Pentagon. 2』『Pentagon. 3』(すべてmaximum10)

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