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カテゴリ : 高見 

掲載: 2008年04月09日 21:23

更新: 2008年04月09日 21:23

文/  intoxicate

今年の三月、ようやく山口芸術情報センターに行ってきた。池田亮司のdatamatic展を見るのが目的だった。湯田温泉のまっただ中にあってひときは広い敷地内に、想像以上に横に長くひろがったYCAMは、ポツンとたっていた。朝十時の開館時間に少し遅れて入館したのだけれど、地元の人、と思わしき老若男女が、どんどん図書館にやってくる。datamatic展の開演時間の12時まで、図書館で、時間をつぶす。昨晩、湯田温泉の、中原中也が結婚式を挙げたという西村旅館に宿をとり、一泊。食事を近くの小料理屋でとった。気のいいママが、標準語に反応して「お仕事ですか?」などと聞いてくる。めんどくさいので、そうですmなんて返事して、適当なものを注文する。が、どうもどうしても食べなければいけない、定番メニューがあるらしく「初めていらっしゃる方も、これはいい!とおっしゃるんですよ」と、こちらの注文なんて、まるで聞いてくれない。まあ、これもよくあること。と「あっ、いいですね。それで‥。」と、こちらが話終わるのをまたず、厨房にどんどn注文がとおる。「お客さんおひとり?」なんて、あらためて聞かれて「誰か、僕、いっしょなんすかねえ‥」とつぶやいていても、おかまいなし。どんどん話す。それに、注文していないものが、どんどん並ぶ。「これ常連さんの差し入れなんですよ。よかったらどうぞ」。そして、どんどん飲まされ、食べさせる。「山口県人は、人見知りなんですよー」なんて、今さらのように、謙遜がはじまって、ママの目線が怪しくなっているのに気がついた。ママもそろそろ本格的に酔いがまわってきたらしい。これはやばいと思って、お勘定を申し出ると「あらっ、早いですね。ちょっとまってね」と伝票を確認している。だか、どうも様子がおかしい。「大丈夫ですか?」と尋ねてみるが、人の話なんて聞こえていない。「えーっと、あら、注文の数と、カウンターのお皿の数がおかしいわね〜。」とつぶやいているのが聞こえてきた。げげっ。しかし、今更「これは、常連さんの差し入れじゃあなかったのかなあ」なんて言えない。それに、どうも、本当に酔っている。「こんなメニュー、うちにあったかしら〜。セイさんこれ、今日のおすすめだったァ」、いや、だから常連の差し入れなんだって。あげく「ほほほほ。ちょっとまってくださいね、あっ、せっかくだから、今日とっておきの焼酎だしちゃおうかな、サービスするから飲んでって」えーーー。また、後ほどチャージなんてことになるんじゃァ、とここは固辞して、なんとか、怪しい勘定をすませ、被害がひろがらないうちに、失礼させていただいた。そして、朝を迎え、YCAMで朝日を浴びて、平日の昼間、開演直後の12時から、池田の新作をみた。まっくらなホールに、夥しい量の記号が、整然とながれていく。スクリーンに投影された上下左右に同時に展開していく数字と記号の列のながれと、シグナルのように、音楽的な表情を奪われたドットのような音がシンクロする様が繰り返されるのを、じっと、浴びるように見た。数時間、じっと闇の中で、池田亮司の新作を、おそらく一人でみていた。ちいさな粒のような文字列と、ぎりぎりにまでアーティキュレートされた、シグナルのような音が、ただ整然と、永々とながれていく。これはなんだろう。ここはどこだろう。これはどうなるんだろう。真っ暗なホールでうつらうつら考えていると、いきなり懐中電灯にうつろに照らされた係の人顔が、暗闇に浮かび、こえをあげそうなくらい怯えている僕にむかって「どうもありがとうございました」なんて、話かけてくる。えーひとりじゃなかったのね。

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