トップ > そしてSteve Reichは_

カテゴリ : blog 

掲載: 2008年06月09日 17:30

更新: 2008年06月09日 17:30

文/  高見

ライヒの来日からしばらくたった。今回は、武満徹作曲賞の審査員としての来日だったので、短期な上に、彼の音楽が聞けたのは東京だけという寂しい来日となった。久しぶりの来日だったこともあり、新旧ライヒファンが入り乱れ二日間のコンサートは、瞬く間に売り切れてしまった。その貴重な二日のコンサートで演奏されたのは、初日が、Daniel Variations, Music for 18 Musicians 二日目が、 Drumming (excerpts)、Proverb、そしてやはり、Music for 18 Musiciansだった。両日のチケットを買った友人もちろん、少なからずいたわけで、そういう人たちは、二度、18 Musiciansを聴いたわけだ。僕は、初日に行って、日本初演である新作と彼のマスターピースを聞いた。個人的にはこのマスターピースを生で聴くのは、これが三回目だった。

ライヒは、演奏不可能な作品を演奏家のために作曲家が書き下ろしていた不条理な時代に、作曲家自身がアンサンブルを組織し、自らも演奏するという合理的なアイデアをもって、どんどん自作を発表していった作家だった。ある意味、カメラをもって街を徘徊したゴダールのようかもしれない。だから、正直、ライヒの作品が演奏されるとき、演奏家と聴衆の間に、指揮者が介在するといつも違和感を感じてしまう。ライヒ自身も、古典や、ロマン派作品のように、指揮者がアンサンブルを支配するような、演奏家たちを超越してしまようような位置を、もちこみたくないといっていた、と思う。今回の新作は、あらかじめアルバムを聞いて心の準備をしてはいたが、やはり、そんな違和感を簡単には払拭してくれなかった。ピエール・ブーレーズの”スュル・アンシーズ”(指揮者と、三組のピアノ、ハープと音律打楽器という編成)のほうが、複数のピアノ、打楽器を使ったものとしては、いいように感じた。

そして、休憩をはさんで、名曲を聞いた。今回、EMの演奏も素晴らしく、なんの文句もありませんが、なぜ?いつもライヒといえばこの曲?なのですか? とふと溜息をついてしまった。最後の一音がとても美しく響く作品としては最高の部類にはいる曲だし、何度も聞くことに抵抗なんてないけれど、またしても、この曲かあ、という印象をついにもってしまった。贅沢な話である。毎年を、必ず第九で締めくくることが必要な人もいるだろうが、どうも私にはそんなことできそうにない。それに、ライヒは他にも素晴らしい作品がある。70年代のミニマルミュージックのマスターピースひとつで、特殊な編成故に、そもそもそんなに演奏の機会に恵まれないというのもわかる、のですが。

おそらく、ライヒ作品に限らず、現代音楽の作品は、音楽的な印象よりは、技術的/美学的な歴史的/同時代性にたいする評価が優先され、プログラムが決定されがちだからだろうと思う。たとえば、ライヒにおいては、この18 Musiciansの後に書かれたいくつかの作品、たとえばMusic for Large Ensembleなど、彼の音楽家としての遊びや、楽しみ、創意の即興的なふくらみすら感じる素晴らしい作品のひとつなのに、ほとんど演奏されていない。作曲の技術的到達点ばかりを気にするあまり、聞こえてくる音は二の次というのは、いつもの所謂現代音楽的な状況なのかもしれない。いつまでたってもレントゲンでみないとその良さが評価できないものばかりが演奏されるというのもいかがなものかと思ってしまう。一方で、自分の好みばかり優先させてしまいがちな、小心なリスナーが増えているのも確かだけれど。

もしかすると”わからない/聞いた事がない”から興味をもって何度も聴いてみるという時代はおわって、そのかわり”わかる/聞いた事がある”から何度も聴く、という時代がはじまったのかもしれない。つまり、本当に新しいことをもとめてる耳は、もうないのかもしれない。あるいは、新しいことにさらされる機会が激減しているのかもしれない。

今回、ライヒが審査員を努めた武満徹作曲賞では、思いがけない作品が賞を受賞したという。本選の模様は、以下の番組でのON AIRが決まっている。来年は、ドイツの作曲家、ヘルムート・ラッヘンマンが審査員をつとめる。ぼくは、彼のギター作品”Salut für Caudwell, music for two guitarists ”が好きだ。この曲の演奏を収録したコルレーニョ盤は残念ながら廃盤。かわりといってはなんですが、ディレク・ベイリーのソロでも聞きますか‥。


●本選演奏会のもようはNHK-FMで放送される予定です。
番組名:NHK-FM「現代の音楽」
放送日時:2008年7月6日[日]18:00 - 18:50 /7月13日[日]18:00 - 18:50
(2回に分けての放送)