幅広い声域を持つバリテノール歌手マイケル・スパイアーズによる、ワーグナーと彼の作曲の基礎を形成した作曲家によるレア・アリア集。共演は、クリストフ・ルセ指揮とピリオド楽器によるレ・タラン・リリック!
マイケル・スパイアーズのアルバム《バリテノール》と《コントラ=テノール》が示しているように。スパイアーズは挑戦と視点を変える歌手です。2024年のバイロイト音楽祭で『ワルキューレ』のジークムント役でデビューする彼は、このアルバム『In the Shadows』においてワーグナーと彼の音楽劇の起源についてさらに明らかにしています。
『In the Shadows』の最後の3つのアリアは、ワーグナーによる「ローエングリン」(1850年)と、1830 年代のほとんど演奏されなかった2つの作品、「妖精」と「リエンツィ」によるものです。ワーグナーへの道を照らすのは、メユール、ベートーヴェン、ロッシーニ、マイアベーア、ウェーバー、オベール、スポンティーニ、ベッリーニ、マルシュナーなど、フランス、ドイツ、イタリア楽派の作曲家による19世紀初頭のアリアです。スパイアーズともにその探索を行うのは、歴史に基づいた演奏を行う指揮者のクリストフ・ルセとレ・タラン・リリクです。
『ワーグナーはさまざまな感情を呼び起こします。畏怖、恍惚、さらには恐怖…私が興味をそそられたのは、彼を伝説的な作曲家へと形作った複雑な影響の網を解き明かすことでした。このアルバムを研究している間、私はすべての点を結びつけ、ワーグナーが彼の音楽にもたらしたさまざまなテーマやアイデアをすべて取り入れています』と、スパイアーズは語っています。
間違いなく、ワーグナーはオペラを「芸術作品」、つまり総合的な芸術作品の方向に導いた最初の現代作曲家として認められています。しかし、オベール、ベッリーニ、メユール、マイアベーア、ロッシーニ、スポンティーニなど、ワーグナー以前の作曲家の作品を研究し演奏すればするほど、ワーグナーが唯一の油そそがれたミューズではないことがますます明らかにされます。このアルバムはワーグナーの芸術的功績を貶めることを目的としたものではなく、むしろその影に埋もれていた作曲家たちによる画期的だったアリアに光を当てることに努めています。つまり彼らはワーグナーの作曲の基礎を形成し、ワーグナーのテノール歌手のヴォーカルライティングの枠組みを形作ったことが理解できるでしょう。
そして、共演のクリストフ・ルセとレ・タラン・リリックとともに、ワーグナーやそれ以前の時代の死タイルの楽器と奏法を使用し、現代のオーケストラでは聴くことのできない、作曲が意図した最も興味深い素朴な音による新たな音楽を聴くことができます。
ワーナーミュージック・ジャパン
発売・販売元 提供資料(2024/01/19)
Partly due to Wagners megalomaniacal ways, the program here is one that nobody has put together before. The Romantic idea of the solitary genius was nowhere more applicable than Wagner, who rarely acknowledged being influenced by anybody and certainly wouldnt have welcomed comparisons to Italian composers. Yet this survey by tenor Michael Spyres of the "shadows" out of which Wagner emerged makes all kinds of sense. Spyres program is chronological, and it begins with music from Etienne Nicolas Mehuls Joseph (1807), a work that attained a good deal of popularity in Germany, although it is hardly known today. Spyres proceeds forward in time, alternating well-known works (Beethovens Fidelio, Op. 72, Bellinis Norma) with those less so (an early Italian-language Meyerbeer, Il crociato in Egitto, Heinrich Marschners Hans Heiling, Op. 80). By the time he gets to the 20-year-old Wagners Die Feen and then Rienzi, the results seem almost predetermined. Weber, often considered Wagners direct ancestor, is here, but he was not the full story, and the real Wagnerian breakthrough, represented by "Mein lieber Schwan" from Lohengrin, somehow seems richer than usual. It is, partly, that Spyres, billed here as a baritenor, is clearly emerging as a major star. He has developed an instantly recognizable style, with a clipped vibrato that can expand expressively, as needed, and it meshes well with the work of conductor Christophe Rousset and his historical instrument ensemble Les Talens Lyriques. As much as any other recording, this one puts the listener in the place of an early-to-mid-19th century opera fan. ~ James Manheim
Rovi
バリテノールとして唯一無二の活躍を見せているスパイアーズ。今作はメユール、ベートーヴェン、マイアベーア等ワーグナーに影響を与えた先人たちの作品から『ローエングリン』の《愛する白鳥よ》まで幅広い選曲。それぞれを豊かな声と掘り下げた表現で歌い上げています。バックはクリストフ・ルセ指揮、ピリオド楽器のル・タラン・リリック。今夏は『ワルキューレ』のジークムントでバイロイトデビューも控えています。今回もワーグナーと共にベッリーニ、ロッシーニを歌いこなしており改めて驚きと感動を覚えます。これからもこの輝かしき歌声で素晴らしいキャリアを築いて行って欲しいものです。
intoxicate (C)古川陽子
タワーレコード(vol.168(2024年2月20日発行号)掲載)