私の「1960年代JAZZ名盤」(新宿店)
50年代にビ・バップの発展形として誕生したハード・バップ。さらに音階を中心にアドリブを展開するマイルスが広めたモードジャズ。60年代になるとそこからさらにファンキージャズ、フリージャズ、スピリチュアルジャズ、ジャズロックと他ジャンルの音楽を取り込みながら枝葉のようにJAZZという音楽は広がっていきます。マイルス&コルトレーンという巨人を中心としたシーンの変容に加えてヴァッソ=ヴァルダンブリーニやジャズ・クインテット60、ドン・レンデル&イアン・カーなど欧州JAZZも紹介したかったのですが廃盤多数。いずれ再発された際にご紹介させていただく機会が出来ることを切に願います。
Selected by
新宿店/熊谷
基本メタル&プログレが主食ですが副菜としてJAZZ、ワールド、クラシックも食べている雑食系バイヤー。
Bill Evans (Piano)『ワルツ・フォー・デビイ +4(SHM-CD)』
ビル・エヴァンス、スコット・ラファロ、ポール・モチアンの音楽市場に残る名ピアノトリオが残した永遠の傑作。ピアノトリオのリリシズムの理想形がここにあります。ビル・エヴァンスの姪に捧げられた名曲「ワルツ・フォー・デヴィ」はもちろんのこと冒頭の「マイ・フーリッシュ・ハート」や「マイ・ロマンス」など単にエレガントと評するにはもったいない心の琴線を刺激するピアノが詰まっています。リズム陣の二人との掛け合いも聴き所で単にバラードの名曲が入っただけのアルバムではありません。「サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジバンガード」と対をなしており必ずそちらも合わせてお聴きください。
Mal Waldron『レフト・アローン +6 <完全限定生産盤>(UHQCD/LTD)』
マル・ウォルドンが伴奏を務めた不世出のJAZZシンガー、ビリー・ホリディに捧げた名作。本作の魅力は何といっても冒頭の「レフト・アローン」。マルのピアノによるイントロの後にむせび泣くようにブローするジャッキー・マクリーンのアルトサックスはどこか悲しげでとてつもなく官能的です。この魅力的な曲がはいっただけで選出したといっても過言ではありません。また急にハードな演奏でアルバムの流れを変える「マイナー・パルゼイション」やソニー・ロリンズ作の名ハード・バップナンバー「エアジン」は曲の雰囲気はそのままに数多くの演奏とは違う独特なアレンジで聴かせてくれたりとマルのアルバムの中でもトップを争う傑作です。
Herbie Hancock『処女航海 <限定盤>(UHQCD)』
60年代ブルーノートを代表する名盤。当時のマイルスグループのリズム陣二人に加えてフレディ・ハバード、ジョージ・コールマンという歳の近い若手と共に生み出したモードJAZZの傑作。本作の目玉は何といってもタイトル曲「処女航海」とラストの「ドルフィン・ダンス」美しい白波を思わせるメインテーマに寄り添うハービーのピアノに合わせて管楽器二人の抑制の効いたプレイとブルー・ノートサウンドのマッチングが絶妙。また「ジ・アイ・オブ・ザ・ハリケーン 」では若手ミュージシャンらしい溌剌とした好演が光ります。60年代新主流派JAZZを知る上で絶対に外せない名盤です。
Miles Davis『イン・ア・サイレント・ウェイ(Blu-spec CD2)』
68年の「マイルス・イン・ザ・スカイ」からエレクトリック楽器を導入したマイルスの実験精神が本作というJAZZ史に残る傑作を生みだした。ハービー・ハンコック、チック・コリア、ジョー・ザヴィヌル、ウェイン・ショーター、ジョン・マクラフリンら70年代のフュージョンシーンを牽引するアーティストが結集。本作の成果を各々のグループで昇華させていくこととなる。美しく不穏な暗闇の世界を時にマクラフリンのギターが切り裂きマイルスのトランペットが光となって照らす。JAZZに限らず69年は70年代の世界を既に見据えた名盤がいくつも発表されたがその中でも本作は最右翼。「ビッチェズ・ブリュー」と共にどうぞ。
John Coltrane『至上の愛(SHM-CD)』
ジョン・コルトレーンがモダンJAZZの階段を一気に駆け上がった軌跡を順に辿っていくと10数年という短い期間に一人の人間がここまでの境地に達するものかと驚きを抑えることが出来ない。本作はジョン・コルトレーンの黄金カルテットが放った最高傑作。中音域にエネルギーが集中し時に呪術的な雰囲気さえ醸し出す60年代のコルトレーンですが本作ではそういったスピリチュアルな雰囲気と名テナー奏者としての音のバランスが良く取れた演奏となっています。4トラックにそれぞれ副題がついていて通して聴くことをオススメしますが特に「決意」「追求」はコルトレーンの遺した演奏の中でも白眉といえるでしょう。
John Coltrane『バラード(SHM-CD)』
2000年代にクラブジャズの隆盛と共に再評価されたアート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズが3管編成になって初の作品。とにかく冒頭のタイトル曲「モザイク」のエネルギーの放射溢れる演奏が素晴らしい。3菅編成の始まりを高らかに宣言するようなオープニングからブレイキーとシダー・ウォルトンの煽るような助走を経て一気にフロントの3人のアドリブの応酬に入っていく様は快感です。ファンキーな「ダウン・アンダー」「チルドレン・オブ・ザ・ナイト」はメッセンジャーズの十八番的演奏。曲名通り中東風メロディが印象的な「アラビア」などメッセンジャーズの名作群の中でも頭一つ抜け出た傑作です。
Bill Evans (Piano)『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード +5(SHM-CD)』
リリースから現代にいたるまでJAZZアルバム不動のロングセラーを誇る「ワルツ・フォー・デヴィ」と対をなす大傑作。もし「ワルツ・フォー・デヴィ」しか持っていないならこちらも是非。こちらはよりピアノトリオとしてのインタープレイを重視した演奏で「ソーラー」「オール・オブ・ユー」でのスコット・ラファロとポール・モチアンとの応酬は決してハードにはならないものの青白い炎が見えるような濃密な演奏。もちろんビル・エヴァンスのリリシズムは随所に見られ「グロリアズ・ステップ」冒頭の卵を転がすような繊細なタッチやディズニーナンバー「不思議な国のアリス」は彼の魅力を十二分に味わうことが出来るナンバーです。
Wes Montgomery『フル・ハウス +3(SHM-CD)』
オクターヴ奏法の名手ウェス・モンゴメリーが放った傑作。ウェスは60年代後半にイージーリスニング的な大ヒット作を世に出したことでPOPSファンの認知度が上がったギターリストですがJAZZの持つアドリブの応酬によるスリリングな魅力とメロウかつ渋さを滲み出す演奏の妙を楽しむなら本作を迷わずオススメします。ウィントン・ケリー、ポール・チェンバース、ジミー・コブという50年代後半のマイルスグループを支えた最高のリズムセクションをバックに『小さな巨人』と言われたジョニー・グリフィンと一緒にタイトル曲を始め極渋な演奏を聴かせてくれます。深夜にアナログジャケを眺めながらウイスキー片手に味わいたい1枚。
Art Blakey & The Jazz Messengers『モザイク(SHM-CD)』
Bobby Hutcherson『ハプニングス <限定盤>(UHQCD)』
「カインド・オブ・ブルー」のモードJAZZから発展した新主流派JAZZの中でもハービー・ハンコックの「処女航海」と並ぶ傑作。透明感と禁欲的な美しさを兼ね備えるハッチャーソンのヴィヴラフォンは「アクエリア・ムーン」「ヘッド・スタート」といったアップテンポナンバーでも決して熱くなりすぎることがなくクールな雰囲気を崩すことがありません。それは「ブーケ」「ロホ」といったスローナンバーでは余計にその魅力が際立ちます。そして「処女航海」。本作でピアノを務めるハービー・ハンコック自身のナンバーで彼のアルバムでも披露されていますが、この60年代JAZZが生み出したこの名曲の最良の演奏の一つと言えるでしょう。
タグ : タワレコ名盤セレクション
掲載: 2020年06月17日 14:58