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往時の巨匠の演奏会に居合わせているような臨場感~ブルーノ・ワルター・イン・ストックホルム

ワルター・イン・ストックホルム

以前、エアチェック・ソースと思われる音源からLPやCDで発売されたこのとある、1950年のブルーノ・ワルターのストックホルム・ライヴが初めてスウェーデン放送のオリジナル・ソースから復刻されます。

今まですべてストックホルム・フィルの演奏とされてきましたが、今回9月8日の演奏会はスウェーデン国立交響楽団との演奏であることが判明しました。音質は年代相応のものですが、以前のものよりも明瞭度と雰囲気感が増し、オーケストラの音色の艶やかな美しさや、演奏会場の豊かな響きが感じ取れるようになったのは大収穫と思います。また全ての曲で演奏終了後の聴衆の拍手が収録されているほか、9月8日のシューベルトの“ザ・グレート"では演奏開始前の楽員のチューニングの音と、ワルターが登壇するときの拍手が1分35秒も収められていて、往時の巨匠の演奏会に居合わせているような臨場感を味わえるのも、ファンにとってはたまらないことでしょう。

明瞭になった音質により、当時73歳だったワルターの自在で情緒豊かにして力強い演奏がいっそう感じ取れるようになりました。例えば、9月8日のモーツァルトの“アイネ・クライネ・ナハトムジーク"など、あの不朽の名盤と言われる1936年のウィーン・フィルとのSP録音とそっくりの表情と柔らかな味わいをもっており、久しぶりにヨーロッパに戻って往年のスタイルを自ら楽しんでいるワルターの姿を思い浮かべることができます。

同日のシューベルトの“ザ・グレート"はワルターの得意曲目ですが、まるで自作自演にようにテンポや表情を絶えず変化させながら、なおかつ全体を巧みにまとめあげる手腕に今更ながら驚かされます。スウェーデン国立放送交響楽団も温かな音色、息のあったアンサンブル、そして豊かな歌をたたえた演奏で巨匠に応えています。

9月13日ライヴのブラームスの“ドイツ・レクイエム"も指揮者、歌手の入場時の拍手入り(0分57秒)。下記ライナーノートにあるように極めて起伏に富んだ、ドラマティックな指揮ぶりで、オーケストラ、合唱団とも演奏に没入していることが生々しく伝わってきます。バス・バリトンのジョエル・ベルグルンド(1903~85)は当時47歳のヴェテランで、スェーデン王立歌劇場の監督の重責を担っていました。バイロイト音楽祭の出演経験があるなどワーグナーを得意としていて、深々とした声と内省的な歌い方は大歌手ハンス・ホッターを思わせます。ソプラノのケルステン・リンドベルイ・トーリンド(1903~82)はオペラではなく、一貫してコンサート・シンガーとして活動した人で、歌曲と宗教作品を得意としていました。第5楽章での真っ直ぐな美しい声と、身も心も捧げ尽くすような歌い方は感動的です。
(タワーレコード)

『ブルーノ・ワルター イン ストックホルム』

【曲目】
(1)モーツァルト:交響曲第39番
(2)モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク
(3)シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」
(4)ブラームス:ドイツ・レクイエム

【演奏】
ブルーノ・ワルター(指揮)
(1)~(3)スウェーデン国立放送交響楽団
(4)ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団、王立フィルハーモニー合唱団
ケルスティン・リンドベルイ・トールリンド(S)ジョエル・ベルグルント(Br)

【録音】
(1)-(3)1950年9月8日ライヴ、(4)1950年9月13日ライヴ

※~ライナーノート~より
1950年の晩夏から秋にかけて、ワルターの身はヨーロッパにあった。8月にはザルツブルク音楽祭に出演し、ウィーン・フィルのオーケストラ・コンサートを二日間指揮している。この中からマーラーの交響曲第4番とベートーヴェンの「エグモント」序曲がCD化されて聴くことができる。さらに9月4日には、フランクフルト博物館の管弦楽団(これはフランクフルト歌劇場のオーケストラの別名)を指揮し、ここではマーラーの交響曲第4番を取上げている。これは第二次大戦後初のドイツにおける演奏となった。この録音も現存する。そしてストックホルムに移動、8日から14日にかけての演奏会。さらに24,25日は生れ故郷のベルリンを訪れてベルリン・フィルに出演。これがベルリン・フィルとの再会にして最後の共演となった。10月2日にはかつて歌劇場総監督の地位にあった、バイエルン国立歌劇場のオーケストラ・コンサートを指揮し、シューベルトの「未完成」とマーラーの第1交響曲を指揮している。この時期にワルターは恐らくもっと多くの土地を訪れ、オーケストラに客演している筈である。70歳の半ばでこの長期に渡る過密スケジュールをこなせたのは驚異的だ。気力の充実もさることながら、心臓の病に冒される前という体力的な好条件も揃っていたから可能だったとも言えよう。モーツァルトの交響曲第39番は、予想通り響きがとても柔らかい。「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」も瑞々しい感性は、古くから聞かれているSP録音と変わることなく、老け込んだ気配もない。ライヴ録音故に快活さが当然のごとく加味されている。演奏会のメインの曲目が「ザ・グレート」である。これは雄大なスケールを持った演奏であり、細かく刻むリズムの楽しさは抒情的表現の泰斗であるワルターらしい快演である。この曲のライヴ録音は他にNBC響とのものしか聴けないので、今回のリリースは歓迎されるだろう。ワルターはブラームスに関してもエキスパートであったが、「ドイツ語によるレクイエム」となると、シリアスな表現が徹底している。ストックホルム・フィルの「ドイツ・レクイエム」というと、このワルターの演奏と近い時期に行われた、フルトヴェングラーの1948年の演奏が有名だ。合唱団も共通している。この合唱団が優秀なのは周知の事実である。ワルターの演奏もフルトヴェングラーに負けず劣らずの劇的な演奏である。「ドイツ・レクイエム」の第2曲目、「肉はみな、草のごとく」の結構派手で動的なアプローチの迫力、第6曲目「われらここには、とこしえの地なくして」はヒロイックでもある。第7曲目「幸いなるかな、死人のうち、主にありて死ぬるものは」の終結はさすがに静かに瞼が閉じるような静謐さである。極めて起伏に富んだ演奏であり、歌劇場で育った芸術家ワルターならではのドラマティックな名演と言えるだろう。
※英語、日本語、ドイツ語によるライナーノート付
(東武ランドシステム) 

カテゴリ : ニューリリース

掲載: 2015年11月27日 20:00

更新: 2015年12月08日 14:00