ブルーノ・ワルター『ワルター・コンダクツ・モーツァルト&ハイドン – リマスタード・ステレオ・レコーディングズ』6枚組 2024年11月22日発売
ワルター最晩年のコロンビア響とのステレオ録音からハイドンとモーツァルト作品をボックスセット化。米盤初出盤のカップリングとジャケットによる完全生産限定盤。
フルトヴェングラー、トスカニーニと並び、20世紀最大の指揮者と賞されるブルーノ・ワルター。ワルターはその長い音楽活動の中で、レコード録音を特に重要視したパイオニア的演奏家の一人でした。
1950年代に本格的に実用化されたステレオ録音は、それまでのモノラル録音と比較して、音の鮮明度、分離の良さ、広がりなどでより優れた特性を示し、家庭環境でのステレオ再生もテープで始まり間もなくLPレコードで可能になると、爆発的な勢いで普及していくことになります。そうした状況を察知したコロンビア・レコードのプロデューサーだったジョン・マックルーアはブルーノ・ワルターのステレオ録音を企画します。1957年に心臓発作で倒れ静養していたワルターを説得し、ロサンゼルス・フィルやハリウッド・スタジオのメンバーで録音用のオーケストラを編成して、ワルターの中心的なレパートリーだったドイツ・オーストリア系の交響曲と管弦楽曲の網羅的な録音プロジェクトを開始したのです。ワルターの肉体的な負担を減らすべく、録音会場にはハリウッドの自宅近くのアメリカン・リージョン・ホールが選ばれ、1日に1セッションというゆっくりしたペースで進められ、1958年1月8日、ベートーヴェンの交響曲第8番(初日は第2楽章を録音)に始まり、1961年3月31日のモーツァルトの序曲4曲に至るまで、約4年間でベートーヴェンとブラームスの交響曲全曲、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、ブルックナー、ドヴォルザークの主要交響曲、ワルターが最晩年まで演奏レパートリーに持っていた師マーラーの交響曲、ワーグナーの管弦楽曲集など55曲もの作品が、鮮度の高いステレオ・サウンドで残されたのです。
今回のボックスには、その中からハイドンの交響曲2曲とモーツァルトの後期交響曲6曲、序曲集とヴァイオリン協奏曲2曲という6枚分を収録しています。各ディスクは米初出盤のジャケット・デザイン(表裏共に)による紙ジャケに封入、発売当時のレーベル・デザインを採用し、詳細な録音データを伴うトラックリストとアーティスト写真を掲載した全20ページのオールカラー中綴じブックレットとともに、厚紙製クラムシェルボックスに封入されています。
リマスターは2019年発売の77枚組「ブルーノ・ワルター~コンプリート・コロンビア・アルバム・コレクション」のものを採用。これらはソニークラシカルと日本のソニー・ミュージックとの共同プロジェクトとして企画されたもので、アンドレアス・K・マイヤーによってオリジナル・アナログ・マスターから新しくリミックスおよびリマスターされ、それまでのLPやCDで親しんでいた腰高の響きではなく、ワルターが志向したヨーロッパ風の重心の低い、落ち着いた格調高いサウンドを実現した画期的なものです。
ワルターのハイドンとモーツァルト
ジェームズ・H・ノース
偉大な指揮者たちの時代、多くの指揮者が賞賛され、敬われ、時には崇拝されたが、ブルーノ・ワルターは「愛されて」いた。彼はどの指揮者にも劣らずリハーサルでは厳しく、楽団員に対しても厳しい要求をしていたが、彼の人柄には慈悲深さが漂っていた。そのため、彼の少し厳しそうな顔つきが光り輝くように見えたのだ。こうした特徴は彼の演奏にも現れており、それは年を重ねるごとに一層際立っていった。
ワルター1957年にカリフォルニアに引退した際、コロンビア・レコードの重役たちは、ステレオ技術の到来によって彼がそれまで残してきたモノラル録音を時代遅れにしてしまうと指摘し、ステレオによる主要レパートリーの再録音を提案した。それに際してコロンビアは、レコード・レーベルの名を冠した「コロンビア交響楽団」という名称でオーケストラを特別に編成したが、人数は録音レパートリーに応じて変動し、そのメンバーも日によって大きく異なった。例えば、全曲が4時間のセッションで録音されたモーツァルトの「プラハ交響曲」は、ヴァイオリン14、ヴィオラ4、チェロ3、コントラバス2という弦楽パートを含む34名で、ワルターによるハイドンやモーツァルトの作品の録音ではこの規模の編成が採用されていた。コンサートマスターはイスラエル・ベイカー、その他のセクションリーダーは全員がロサンゼルス・フィルの首席奏者で、残りのメンバーはフリーランスのメンバー(映画スタジオで演奏していた引退した音楽家たち)から選ばれていた。
ワルターのモーツァルトやハイドンは、いわゆる歴史的な演奏様式に基づいてはいない。しかし、それらは非常に魅力的で、よほどの頑固者でなければ文句を言うことはないだろう。ハイドン作品には素早く、ダイナミックな機知が要求されるが、それはワルターの音性とは必ずしも一致しない。ワルターがニューヨーク・フィルとモノラル録音した第95番と第102番は、コロンビア響との第88番と第100番よりもハイドン演奏の理想に近いかもしれない。それでも、どちらもワルターの個性が反映されたハイドンとしては素晴らしい演奏だ。コロンビア響とのモーツァルトの交響曲は、1950年代後半のニューヨーク・フィルとのモノラル録音と酷似しているが、モノラル盤の方がややまとまりがある気がする。
ジノ・フランチェスカッティは、バッハからバーンスタインまで、コロンビア・レコードのためにほぼすべてのヴァイオリン協奏曲のレパートリーを録音した、情熱的なフランスの名手だ。この美しい歌のようなモーツァルトの協奏曲では、ストラディヴァリウスの名器「ハート」を弾いていたフランチェスカッティの明るく輝くような音色が、ワルターの軽やかな演奏を生き生きとさせている。
これらの6枚のディスクは、この愛すべき巨匠のメモリアルとなる貴重な記録といえるだろう。
(ライナーノーツより)
収録内容
<CD1>
モーツァルト:
1. アイネ・クライネ・ナハトムジーク K.525
2. 歌劇『劇場支配人』K.486 序曲
3. 歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』K.588 序曲
4. 歌劇『フィガロの結婚』K.492 序曲
5. 歌劇『魔笛』K.620 序曲
6. フリーメーソンのための葬送曲 ハ短調 K.477
[演奏]ブルーノ・ワルター(指揮)コロンビア交響楽団
[録音]1958年12月17日(1)、1961年3月29,31日(2-6)、
ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール
<CD2>
モーツァルト:
1. 交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』
2. 交響曲第35番ニ長調 K.385『ハフナー』
[演奏]ブルーノ・ワルター(指揮)コロンビア交響楽団
[録音]1960年2月25,26,28日(1)、1959年1月13,16,19,21日(2)
ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール
<CD3>
モーツァルト:
1. 交響曲第36番ハ長調 K.425『リンツ』
2. 交響曲第39番変ホ長調 K.543
[演奏]ブルーノ・ワルター(指揮)コロンビア交響楽団
[録音]1960年2月28,29日(1)、1960年2月20,23日(2)
ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール
<CD4>
モーツァルト:
1. 交響曲第38番ニ長調 K.504『プラハ』
2. 交響曲第40番ト短調 K.550
[演奏]ブルーノ・ワルター(指揮)コロンビア交響楽団
[録音]1959年12月2日(1)、1959年1月13,16,19,21日(2)、
ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール
<CD5>
モーツァルト:
1. ヴァイオリン協奏曲第3番ト長調 K.216
2. ヴァイオリン協奏曲第4番ニ長調 K.218
[演奏]ジノ・フランチェスカッティ(ヴァイオリン)、ブルーノ・ワルター(指揮)コロンビア交響楽団
[録音]1958年12月10,12,15,17日、ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール
<CD6>
ハイドン:
1. 交響曲第88番ト長調 Hob.I:88
2. ハイドン;交響曲第100番ト長調 Hob.I:100『軍隊』
[演奏]ブルーノ・ワルター(指揮)コロンビア交響楽団
[録音]1961年3月4,8日(1)、1961年3月2,4日(2)、ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール
カテゴリ : ニューリリース | タグ : ボックスセット(クラシック)
掲載: 2024年10月25日 12:00