ミシェル・ペトルチアーニの父=トニーとセルジュ・デラート、極上のデュオローグ
「昼と夜のセルジュ」で好評を頂戴したSerge Delaiteの新作が届いた。ジャケットをご覧戴ければ、前二作とこの作品が三部作を成していることがお分かりになるだろう。おそらくは、晴れた午前の空気がそこに封じ込められた、緑の街角・・・さしずめ、これは「朝のセルジュ」なのだろう。
今回のフォーマットはギターとのデュオで、相方を務めるのは父ペトルチアーニこと、Tony Petrucciani。そう、夭折の天才ピアニスト、Michel Petruccianiの実父だ。おそらく、史上最も美しい音を聴かせてくれたピアニストの一人であるMichelの演奏を嫌う人は少ないだろうと思うが、その彼が短い生涯に遺した傑作のひとつが、父Tonyとのデュオであることはご存知だろうか? ”Conversation”とタイトルされたそのアルバムを、個人的には「21世紀のUndercurrent」と呼んでいる。それほどに、スリリングで、白熱して、美しい。その演奏に接して、Michelのあのピアノは、一人彼の才能だけが生んだものではなく、「この父にして」ということなのだ、と分かった気がした。その名手を対話の相手に得て、Sergeのピアノはいつにもましてリラックスしている。
これぞまさに、大人の余裕、ではあるまいか? 休日のゆるやかな朝のしじまを彩る、穏やかにして滋味深い音楽がここに生まれた。三部作全てで取り上げた(5)を聴き比べするのもこのシリーズならではのお楽しみ。お気に入りの椅子にゆったりと腰掛け、この小粋なアルバムとともに、素敵な時間を過ごして戴きたい。
Text by 北見柊
掲載: 2016年02月10日 17:25