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坂本龍一による深淵世界『レヴェナント 蘇えりし者』サウンドトラック

レベナント

本年度のアカデミー賞、主演男優賞(レオナルド・ディカプリオ)、監督賞(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)、撮影賞(エマニュエル・ルベツキ)受賞の、壮絶な人間ドラマ『レヴェナント:蘇えりし者』。音楽にも、毎作品こだわるイニャリトゥ監督だが、今回は、音楽を坂本龍一に依頼。壮大かつ繊細なスコアがスペクタクルを色づける。

今回の坂本龍一スコアを中心に、繊細な世界観で聴かせるサントラのお薦め作品も紹介。

 

坂本龍一『レヴェナント 蘇えりし者』

海外長編映画のサントラを担当するのは、2009年のドイツ・オーストリア・フランス・イタリア・ウクライナ・モロッコ合作作品 『Women without men』(日本未公開/監督シリン・ネシャット&ショジャ・アザリ)以来となる、坂本龍一作品。アルヴァ・ノト、ブライス・デスナーとの共作で、 凍りつくような空間の中でのピュアながら、さまざまな感情を呑み込むような深い感覚をサウンドで生み出している。

 

坂本龍一『戦場のメリークリスマス』

もはや、日本のコンポーザーによる、といわず世界的に有名な、この「戦メリ」のテーマ。簡単にアジア風味・日本情緒、と済ませられない不思議なメロディ、しかし、ここちよく、他の曲では味わえない感動は、単なるサントラの名盤の 域を越えていると言っていいでしょう。ある意味、癒し系サントラの走り的な役割も担った、ユニークなサウンド世界。ほとんど全音楽ファン必携盤の域の名盤中の名盤。

 

マイケル・ダナ『デビルズ・ノット』

1993年メンフィスで起こった猟奇殺人を題材にした実録的ミステリーをアトム・エゴヤンが映画化した『デビルズ・ノット』のマイケル・ダナによるサントラが限定でCD化。不穏で寒々とした雰囲気のサウンドをバックに次第にメロディを展開していくピアノ。アンビエント的なオープニングから、やり場のない悲しみとも言えるメロディが姿を表し、ドラマチックさを進めていく。

 

クレイグ・セイファン『バイオ・インフェルノ』

バイオ工場での事故により、細菌に汚染された研究所に閉じ込められたスタッフたちの姿をメインに、「バイオ版チャイナ・シンドローム」とも言うべきムードで展開するシリアスなサイエンス・パニック・ドラマ。監督・脚本は『続・激突!カージャック』のハル・バーウッドとマシュー・ロビンス。音楽は『スター・ファイター』『レモ 第1の挑戦』のクレイグ・セイファン。サウンドは、題材ならではの硬質なシンセ・スコアだが、悲しくメロディアスなメインテーマがユニークな絶望感をにじませて、このスコアの人気のポイント。全体的には無機質的な、いわば感傷的な『アンドロメダ』的電子スコアながら、インパクトが残る迫力のサウンド。

 

ヘザー・マッキントッシュ『Z for Zachariah』

『コンプライアンス』のクレイグ・ゾーベル監督が、今度は登場人物3人で描く放射能汚染のその後。音楽もコンプライアンスと同じくチェリストのヘザー・マッキントッシュが、自身のチェロの音色の他に、最小限のドラマチックさと、ミニマル音楽的冷静さのバランスで聴かせる。確かに「もし、この作品をマイケル・ナイマンが担当していたら」を思わせるドラマとの距離の取り方は、それそのものがまたドラマのよう。不安げな美しさのアプローチの方向性は、現代的でもある。カーター・バーウェル・ファンあたりにもお薦め。

 

アルフォンソ・ビラリョンガ『暴走特急 シベリアン・エクスプレス』

『暴走特急 シベリアン・エクスプレス』は、「マシニスト」「ワンダーランド駅で」のブラッド・アンダーソン監督による、シベリア急行を舞台にしたサスペンス。チェロを主役に、全編アコースティックなオーケストラのみでおおらかにかつ繊細に聴かせて新鮮。後半の『Princesas』は名匠フェルナンド・デ・レオン・アラノア監督による、女性ふたりの友情物語。アコースティックギターとストリングスで不安げながらも時に明るさを見せるメロディを丁寧に聴かせる。ともに、『死ぬまでにしたい10のこと』でファンの増えたスペインのコンポーザー、アルフォンソ・ビラリョンガ音楽。

 

ベルトラン・ブルガラ『ヴィオレッタ』

カメラマンである母は、12歳の娘をモデルにさまざまな写真を撮影するが、母の要求は次第にエスカレートし・・写真家イリナ・イオネスコが1977年に発表した「鏡の神殿」撮影時のエピソードを、実娘が自伝的に映画化。(エヴァ・イオネスコは因みに同年、あの『思春の森』に出演もしている)。その後、女優・モデルとして活躍しているエヴァですが、長編の映画監督は、今回初。その音楽を担当したのは、渋谷系フレンチ・ポップスの最重要人物であり、『カドリーユ』以降、映画音楽への興味も多いサウンド・プロデューサー、ベルトラン・ブルガラ。妖しげに美しいストリングスにハープの奏でられ方がユニークなメインテーマから始まり、ゆったりと幻想的なストリングスから、ソース・ミュージック的に使用されるソフトなエレクトロ・サウンドまで、あたかもゲンズブールの映画音楽の妖しさの現在での復活への挑戦、という雰囲気。デスプラ、バダラメンティあたりのファンにもお薦め。

 

アレクサンドル・デスプラ『君と歩く世界』

5歳の息子と共に、放浪ともとれる旅をする男は、南フランスで、鯨の調教師をしている女性と知り合い、親しくなるが、彼女に悲劇が起こる…様々な視点で人間の深い心理を焼き付ける名匠ジャック・オディアールの2012年作。もともと、感情表現は最小限に、という態度に寄り添う盟友デスプラのサウンドは、今回は、さらにそれを極め、かつシンプルに。ピアノとシンセに室内楽的な構造にしつつも、ストイックに削った音で、まるで不器用であるかのようにポツリポツリとメロディを押し殺しつつも、そこから美しさがこぼれる、といったサウンドを、音響を駆使して仕上げている。始め、サンタオラーヤ的なシンプルさの中の深さを感じつつ、聴きこむうち、デスプラならではの、決してシンプルではない実験を感じ取る。しかも、これが結構、明解に感動させる可能性もあるサウンドであるところが凄い。

 

アトリ・ウルバルソン『転落の銃弾』

ハンターが鹿と誤って射止めてしまったのは人間の女性で、そこには、大金が入ったケースもあった……一人の平凡な男の転落の顛末。アトリ・ウルバルソンのスコアは、抑制し、メロディを削ぎ落とすが、それ以上のサウンドの響かせ方のカラフルさがクールな異色作。

 

アントニオ・ピント『ザ・ホスト 美しき侵略者』

『トワイライト』シリーズの原作者、ステファニー・メイヤーのベストセラーの映画化。異種生命体に寄生された人間たちで埋め尽くされた地球で、新たに訪れた生命体は、まだ寄生されていない人間を見つけるが・・・監督は『ガタカ』『TIME/タイム』のアンドリュー・ニコルで、初めて自身のオリジナルではないストーリーに挑む。そして音楽は、なんとニコル作品では初の、二度目の登板となる『ロード・オブ・ウォー』のアントニオ・ピント。世界的にヒットした2本のブラジル映画『セントラル・ステーション』『シティ・オブ・ゴッド』で注目され、英語圏作品からの依頼の作品も数多く聴く事ができるようになり、独自で新たな世界を開拓中の若きコンポーザーである。サウンドはまるでタンジェリン・ドリームを思わせる乾いたエレクトロの世界から始まるが、次第に生ギターをフィーチャーしたアコースティックな展開などを通過し、複雑に交錯しつつも表情豊かに美しいメロディを織り成す、饒舌でありつつも冷静なエレクトロ・サウンドへと集約していく。

 

カーター・バーウェル『キャロル』

甘くダークな世界は、まさにこれまでのカーター・バーウェルらしい美しさだが、今回は、さらによりメロディアスに、ドラマティックに傾くことで、ジョルジュ・ドルリューのロマンティックさに近づきつつある。密やかに静かな美しさは、古き時代における禁じられた恋の物語にふさわしい。デスプラやガブリエル・ヤレドのファンにもお薦めの幻想的美しさ。イージーリスニングとしても美しい。

 

エンニオ・モリコーネ『ロリータ』

『マレーナ』『ニュー・シネマ・パラダイス』そして『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』とこれらのモリコーネの名メロディを残した映画は、すべて回想録形式の作品である。ということは、その感じの作品はモリコーネものの中でも要チェック、というのは正解で、この『ロリータ』もそう。禁断の愛?を真面目に哀しく描いた作品だけに、モリコーネ・メロディは、ファンの期待通りの美しく切なく、ノスタルジックなサウンドで物語を演出する。テーマの、グラスの縁を手でこすって出すサウンド、あの感じでのメロディのアレンジ、そしてサブ・テーマの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』的なノスタルジアの世界。そして歌い上げ、演出するストリングス。『マレーナ』『ニュー・シネマ・パラダイス』が好きな方には、ぜひおすすめ。

 

 

ガース・スティーヴンソン『奇跡の2000マイル』

オーストラリア大陸を愛犬、ラクダとともに歩いて横断した女性ロビン・デヴィッドソンの実話を、ミア・ワシコウスカ主演で映画化。監督は『夫以外の選択肢』『ペインテッド・ヴェール』のジョン・カラン。撮影は『オーストラリア』などの女性カメラマンのマンディ・ウォーカー。音楽は、本作が初長編劇映画スコア担当となる、コンポーザー/ベーシストのガース・スティーヴンソン。幻想的でアンビエントな空間をアコースティックに作りつつも、その中にドリーミーなメロディを入れ込んでいて、サントラだけでも、その不思議な幸福感は満喫。ガブリエル・ヤレドのドリーミーな傑作『オータム・イン・ニューヨーク』をより枯らせたような音色や、70年代モリコーネのノワール・サントラのアイデアをよりアンビエント化させたようなナンバーまで、酔わせてくれる。新世代コンポーザーの要チェック・スコア。

 

カテゴリ : ニューリリース | タグ : 映画 映画公開関連 映画音楽

掲載: 2016年04月25日 18:30