ブリストル・サウンドのレジェンド、トリッキー(Tricky) 13枚目のアルバム『ununiform』
ワイルド・バンチのDJマイロなどを迎えた2016年リリースの「Skilled Mechanics」に続く本作は、自らのファミリーを含んだルーツに回帰する内容に仕上がっており、そのほとんどをベルリンで、そして内4曲をロシアはモスクワでレコーディング。
ベルリンに移住して以来、11時に寝て9時に起きるという朝方にシフト、酒も飲まずヘルシーな生活の中で自らを見つめ直し、ベルリンのクリスマスの喧騒を避け3週間モスクワに滞在し、その時に現地のラッパーとコラボレート曲を作り上げた。彼曰く20年ほどロシアのヒップホップ・シーンはチェックしているらしく、ロシア訛りのアクセントが気に入っているそうだ。コラボレイターはロシアのトップ・アーティストばかりで、カザフスタン生まれのスクリプトナイト(Scriptonite)は“Same As It Ever Was"、“Blood Of My Blood"、“It's Your Day"にフィーチャーされ、ロシアで最も人気があるヒップホップ・レーベルを運営するプロデューサーであるギャズゴールダー(Gazgolder)が手がける“Bang Boogie"には90年代からロシアのシーンを牽引するスモーキー・モー(Smokey Mo)をフィーチャーしている。
さらに本作では今や伝説となったファースト・アルバム「Maxinquaye」収録の大クラシック“Aftermath"にフィーチャーして以来、公私に渡り彼の重要なコラボレーター/ミューズであったマルティナ・トップリーバード(2003年リリースの彼女のアルバム「Quixotic」以来のコラボレート)と久々に共演しているほか、LAでパパラッチされた女優のアーシア・アルジェント、さらに自らのレーベル、<ファルス・アイドルス>から2015年にアルバム「Anima」をリリースした女性シンガー、フランチェスカ・ベルモンテを迎え、共演曲である“New Stole"は、そのアルバムに収録された“Stole"のリテイク・ヴァージョン。
そしてニューカマーも多くフィーチャーしており、<ワーナー>から「Devoted」というアルバムをリリースしているリチュアルズ・オブ・マインのヴォーカリスト、テラ・ロペス、“Running Wild"で美声を聞かせているミナ・ローズ、さらにアヴァロン・ラークスは、コートニー・ラブのバンド、ホールの1994年の代表曲“Doll Parts"のカヴァーである“Doll"にフィーチャー。
彼のファースト・アルバムにも冠されている自らの母の死を目の当たりにしたのが生まれてから最初の記憶という彼の凄惨な生い立ちは、これまで繰り返しテーマとして通底していて、サウンドと共にダークな彩りが彼の持ち味になってきたが、本作は生と死を双方の側から眺める視点と共にピースな雰囲気を湛えた作品に仕上がった。それは今回のアルバムで完全に自らのレーベルで全てを取り仕切ることで初めてレコード会社との軋轢やあらゆる財政的なプレッシャーから解放されたことと、ベルリンでの3年間を通じて自らのルーツ(彼の祖父はブリストルで伝説となっているサウンド・システムを作り上げたレゲエDJ、ターザン・ザ・ハイプリースト)を振り返ることでより一層自ら表現したい音楽に向き合えたというこの2つの要素が色濃く反映した結果だろう。まさにトリッキー節が全編に漲ったサウンドは美しく壮麗で以前にも増してパーソナルな本作は「ununiform」はトリッキーが新たなステージに到達したことを知らせる充実作。
帯・日本語解説付国内仕様盤
タグ : クラブ/テクノ
掲載: 2017年08月29日 09:04