キューバのダンス音楽「ダンソーン」を辿る編集盤『ダンソーンからチャチャチャへ~キューバン・ダンス・ミュージックの基軸』
ディスコロヒア(「レコード学」という意味の造語)は、レコードに刻まれた音を新しい学問のネタにしてしまおうという世界で唯一のレーベルです。今回もまた世界でもメッタに紹介されることがない珍しい音楽を、ユニークな選曲とざん新な解説でお楽しみいただきます。
今回のテーマは、キューバのダンス音楽の中でももっとも重要な音楽のひとつである「ダンソーン」の流れです。「ダンソーン」からマンボやチャチャチャが生まれ、さらにパチャンガにいたる流れの中で生まれた名演の数々を、1枚のCDで追ってしまおう、という企画。もちろん、このようなユニークな意図で作られたアルバムはこれまで世界でも存在しません。
キューバにおいて「ソン」と呼ばれる音楽が存在することはよく知られています。故・中村とうようさんはこの「ソン」を「キューバの基幹音楽」と呼び、マンボやサルサのルーツであることを解き明かしました。その「ソン」が20世紀のキューバの国民音楽であるならば、今回紹介される「ダンソーン」は、それに先立つ19世紀の国民音楽だったと言えるかもしれません。
ダンソーンが生まれたのは1879年。創始者はミゲール・ファイルデという混血の音楽家でした。当初はブラス・バンドに近い編成で、主にインスト音楽として演奏されています。それから「ソン」が爆発する1925年くらいまでが「ダンソーン」の黄金期です。この時代に楽団編成は、ブラス・バンドからフルートやヴァイオリンを中心としたチャランガ編成に変わります。
このアルバムでは、そんな創始者ファイルデが作った最初のダンソーン曲「シンプソンの高台で」からはじまり、20世紀初頭の名楽団による貴重録音を収録。さらに「ソン」の影響を受けながら独自のざん新な音楽性を生み出す展開を、克明に追いかけます。最初の「ダンソネッテ(歌入りダンソーン)」に最初の「マンボ」、そして最初の「チャチャチャ」、さらに最初の「パチャンガ」...ラストでは、サルサ・マニアも聞いたことがないSP時代(!)のジョニー・パチェーコ楽団のパチャンガまでお聞かせしてしまいます。
「ダンソーン」は、わかりやすく言うと、ブラジルのショーロやアルゼンチンのタンゴ、あるいはアメリカのジャズの兄弟分です。ブラジルのショーロが常にサンバの豊かな音楽性を縁の下の力持ちのように支えてきたのと同様に、「ダンソーン」の流れもまた、常に「ソン」と混じり合いながら、キューバのダンス音楽の豊かさを支えてきました。それこそがキューバのダンス音楽のもっとも魅力的な部分だったとディスコロヒアは考えます。
というわけで、いつも通りの珍品揃い内容ですが、聞いてしまえば初心者でも楽しめるような音源が並べられているのもまたディスコロヒアならでは。また今回からは装丁をDVDサイズに変更し、貴重写真や詳しい解説を大判のブックレットで楽しんでいただけるようになりました。マスタリングもいつもと同様、丁寧に施されています。
キューバ音楽の濃厚で香り高い音楽性をお楽しみください。
【収録曲】
1. Orquesta folklórica Nacional Cubana “Las Alturas de Simpson”
2. Orquesta de Enrique Peña “Yama Yama”
3. Orquesta Francesa Reverón “Gasolina Pa Mi Maquina”
4. Orquesta Francesa de Tata Pereira “Hai Que Ver”
5. Orquesta Antonio Romeu “Mirame y No Me Comas”
6. Orquesta Vicente Sigler (vo. Miguel Matamoros, Siro Rodríguez) “Rompiendo La Rutina”
7. Orquesta Tipica Criolla(vo. Guty Cárdenas) “Ojos Tristes”
8. Paulina Álvarez con La Orquesta Castillito “Duerme”
9. Orquesta Antonio María Romeu (vo. Barbarito Diez) “Voiví a Querer”
10. Orquesta Antonio María Romeu “El Mago de las Teclas”
11. Orquesta Paulina Álvarez “Almendra”
12. Orquesta Cheo Belén Puig “Bella Cubana”
13. Orquesta Belisario López “Pureba Mi Sazón”
14. Orquesta La Maravilla de Arcaño “Broadway”
15. Orquesta La Maravilla de Arcaño “Mambo”
16. Orquesta América “La Engañadora”
17. Orquesta Aragón “El Agua de Clavelito”
18. Orquesta Enrique Jorrín “Milagro del Cha Cha Cha”
19. Orquesta Aragón “El Bodeguero”
20. Orquesta Melodias del 40 “Seis Lindas Cubanas”
21. Orquesta Sensación (vo. Abelardo Barroso) “En Guantánamo”
22. Orquesta Chepín y su Orquesta Oriental “Bodas de Oro”
23. Orquesta Fajardo y sus Estrellas “Kikiriki”
24. Orquesta Fajardo y sus Estrellas “La Pachanga”
25. Pacheco y su Charanga “Acuyuye”
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掲載: 2019年07月11日 12:46