〈Brilliant Classics〉2023年3月下旬発売新譜情報(10タイトル)
ブリリアント・クラシックスは1997年にオランダのピアニスト、ピーター・ヴァン・ウィンケルによって設立された廉価盤レーベルです。始めはオランダで500店舗を展開するドラッグ・チェーンのみで発売され、低価格と同チェーンの広告誌での宣伝効果により爆発的な売り上げを示しました。オランダでの成功を受けて世界展開を始め、2010年にドイツ、ハンブルクを拠点とする独立系の音楽配給会社エーデルの傘下に入った後も、毎月のように廉価盤の新譜を10点程度リリースしています。ここでは2023年3月新譜10タイトルをご紹介いたします。
(タワーレコード)
フレスコバルディ:鍵盤楽器のための作品全集(15枚組)
ロベルト・ロレッジャン(Org、Harpsichord)
17世紀初頭の鍵盤楽器の作曲家として、最も重要で影響力のあった作曲家フレスコバルディ。初期の作品には後期ルネサンス様式を取り入れ、晩年にはイタリア初期バロックの中において印象的な影響力のある作品を残しています。オルガン奏者の息子として、また彼の雇い主である音楽に熱心であったアルフォンソ2世デステ公爵の影響も受け、若きフレスコバルディは成長していきます。マントヴァ公爵にも仕え、その後フィレンツェのメディチ家のオルガニストとなります。さらにローマに移り、教皇ウルバン8世のバルベリーニ家で働くようになります。この頃には、当時の名士たちとも交友を持つようになりました。フレスコバルディは、アスカニオ・マイオーネやジョヴァンニ・マリア・トラバーチ、クラウディオ・メールロなど、多くの作曲家の影響を受けていますが、フレスコバルディの音楽は、それらの作品以上の完成度の高いものとなっています。伝統的な形式を巧みに取り入れただけでなく、テンポの面でも数々の革新的な試みを行いました。このボックスは、オルガン作品全集とチェンバロ作品全集で、リチェルカーレ、トッカータ、カンツォーニ、ファンタジー、カプリッチョなどの膨大なコレクションを、歴史的楽器や貴重な楽器で演奏しています。
演奏は、古楽のスペシャリストとして多くの名録音を残しているイタリアのロベルト・ロレッジャン。これまでのブリリアントクラシックスに録音した作品をまとめた価値あるボックスセットです。
(日本出版貿易)
モーツァルト:ディヴェルティメントKV.563
新イタリア弦楽三重奏団
モーツァルトが弦楽三重奏曲の「ディヴェルティメント」変ホ長調KV.563を作曲したのは、最後の3つの交響曲を完成した1788年です。モーツァルトは、お金を借りたフリーメーソン仲間のミヒャエル・フォン・プフベルクに献呈しました。初演は1789年4月13日にドレスデンで行われ、モーツァルトはヴィオラパートを演奏したという記録が残っています。
著名な音楽学者アルフレート・アインシュタインは、稀に見るこの傑作について「この作品は、真の室内楽であり、芸術、発明、精神の面で何か特別なものを提供しようとしたからこそ、このような大きな規模の作品になったのである。...各楽器は高度なテクニックを要し、演奏者の技量を感じることができる。それらのすべての音は重要であり、無駄のない音は、精神的、感覚的を高みへと導くことに貢献している。」また、アインシュタインは、この作品を「彼の最も高貴な作品のひとつだ」と言っています。最高水準の演奏が期待される中で、この新イタリア弦楽三重奏団は、フレッシュな素晴らしい演奏を繰り広げます。
(日本出版貿易)
カルロ・マンネッリ(1640-1697):トリオソナタOp.3
アンサンブル・ジャルディーノ・ディ・デリツィエ
カルロ・マンネッリは、生涯の大半をローマで過ごし、ヴァイオリニストとして、演奏活動を中心に、オペラ公演や宗教行事でも活躍しました。アルカンジェロ・コレッリは、マンネッリの前でしばしば演奏し、最も影響を受けた教師の一人であると述べています。収録曲のトリオソナタOp.3は12曲のソナタで、そのうち7曲は4楽章、2曲は6楽章、そして最後の1曲は3楽章で構成されています。旋律の鮮やかさと、時にみせる大胆な和声の驚き、豊かな音色、不意を突く半音階的な表現が特徴です。
演奏は、アンサンブル・ジャルディーノ・ディ・デリツィエ。ヴァイオリニストのエヴァ・アンナ・アウグスティノヴィチが2014年に設立したローマの女性バロックグループで、イタリアとポーランドのバロック時代からの忘れられた作品を研究して演奏するなど、大変興味深い活動をおこなっています。エネルギッシュで想像力豊かなアプローチで知られざる名作品の魅力を紹介します。
(日本出版貿易)
バーバー:歌曲全集
レイラ・ディオーネ・エズラ(Sop)エリザベッタ・ロンバルディ(MSop)マウロ・ボルジョーニ(Br)フィリッポ・ファリネッリ(pf)
サミュエル・バーバーは、その卓越したバリトンボイスで抒情詩を表現し、ピアノ伴奏の作品をいくつも披露してきました。メトロポリタンオペラで有名なコントラルト歌手であった叔母に勧められ、作曲の練習に集中していきます。バーバーは、詩、小説、自伝、日記、当時の文芸評論など、高い教養と強い情熱を持って過去と現在の文字・言葉に対峙していました。そのため、彼の歌のテキストは、多岐にわたる詩人らによる、常に最高の品質と幅広いセンスを持ち合わせています。いたずら好きながら知的な表現や、落ち着きを失った憂鬱感なども特徴としてあげることができます。
演奏は、マウロ・ボルジョーニ(バリトン)、レイラ・ディオーネ・エズラ(ソプラノ)、エリザベッタ・ロンバルディ(メゾ・ソプラノ)という国際舞台で活躍するイタリアの3人の優れた歌手が見事な歌唱でバーバーの世界を展開します。またこの企画は、ピアニストのフィリッポ・ファリネッリによるもので、ファリネッリは、これまでブリリアントクラシックスに特徴的な企画としてジョリヴェ、ベルク、ダラピッコラ、ラヴェルの歌曲全集なども手掛けています。
(日本出版貿易)
ヴィヴァルディ(アン・ドーソン編):ヴァイオリン協奏曲集Op.4「ラ・ストラヴァガンツァ」より(オルガン編曲版)
ルカ・スカンダーリ(Org)
協奏曲は、17世紀末に器楽の様式と言語の進化に大きな役割を果たし、18世紀には高い人気と重要性を増していきました。ヴィヴァルディは、合奏協奏曲や協奏曲を確立した作曲家ではありませんが、18世紀前半に器楽曲の最高傑作と言われる作品を多数作り上げたことをみても、このジャンルに大きな刺激を与えたひとりと考えて間違いありません。多くの協奏曲は、チェンバロやオルガンを中心にしたもので、他に編曲作品でも、多くの聴衆に人気を博しました。このディスクでは、ヴィヴァルディの「ラ・ストラヴァガンツァ」作品4から、オルガン用に編曲されたヴァイオリン協奏曲を紹介します。これらの作品は、マンチェスターのヘンリー・ワトソン音楽図書館に所蔵されている「アン・ドーソンの本」と呼ばれるコレクションに収められているものです。1720年頃に編纂されたこのコレクションには、声楽と通奏低音のためのアリアに加え、鍵盤楽器のための楽曲が多数含まれています。ヴィヴァルディの10曲を含むさまざまな作曲家の協奏曲の編曲もいくつか収録されています。これらの曲は原曲に忠実で、鍵盤楽器の大きな可能性と編曲作品の持ち合わせた音楽という点で、高い完成度が見てとれます。
オルガニストのルカ・スカンダーリは、イタリアを代表する研究者であり鍵盤奏者です。ブリリアントクラシックスでも多くの作曲家のオルガン曲全集を残しています。イタリアのアルバシーナにある聖ヴェナンツォ教会の1774年製ガエターノ・カリド・オルガンを使用しています。
(日本出版貿易)
アントニオ・ラウロ(1917-1986):ギター曲集
クリスティアーノ・ポーリ・カペッリ(Guitar)
アントニオ・ラウロはベネズエラ生まれ。幼い頃より父親から音楽の手ほどきを受けています。カラカスに移り住んでから本格的にピアノと作曲を学びます。しかし、当時ベネズエラで人気があり多くのコンサートを行っていたアグスティン・バリオス=マンゴレの音楽に出会い、ギターに専念することを決意し、その後、優れたギタリスト・作曲家となりました。ラウロは、1938年にベネズエラ人として初めてクラシック・ギターの正式な勉強を終えると同時に、声楽とギターのトリオを組んで南米各地を演奏するなど、ポピュラー・ミュージシャンとしてのキャリアも積んでいきます。
ラウロは政治に熱心な一面を持ち、熱烈な民族主義者でもありました。華麗でリズミカルなメロディと、いわゆるポリリズムの一種でもあるヘミオラや拍子、テンポの変化を多用するのが特徴のベネズエラ・ワルツに魅了され、ベネズエラの伝統的な音楽様式を研究するようになります。
1951年、ラウロは民主主義の言動から投獄されましたが、作曲活動は止めず獄中でギターソナタとベネズエラ組曲、それにギターとオーケストラのための協奏曲という代表作を書いています。ギターのための作曲において、ベネズエラのポピュラー音楽とヨーロッパの伝統的な複雑な形式を融合させることを目指したわけですが、それらは非常に魅力的でメロディアスな作品であり、精神と魅力に満ち、楽器の特徴を捉えた見事な音楽ばかりです。
イタリアを代表するギタリスト、クリスティアーノ・ポーリ・カペッリによる音の美しい演奏。ブリリアント・クラシックスでは、ガンギ、タンスマン、カルレバロ、カステルヌオーヴォ=テデスコなどのアルバムを録音し、多くのギターファンに高い評価を得ています。
(日本出版貿易)
ジョヴァンニ・バッティスタ・サンマルティーニ(c.1700-1775):チェロと通奏低音のためのソナタ集
アンサンブル・ドルチ・アチェンティ
サンマルティーニはミラノに生まれ、同時代の作曲家とは異なり、生涯ミラノで活動しました。ミラノの音楽界の中心的存在となった彼は、器楽曲、室内楽曲、宗教曲に力を注ぎ、舞台作品は3曲のみで、オペラを敬遠した珍しいイタリア人作曲家の一人でした。サンマルティーニの作品は、ヨーロッパの主要都市で広く出版され、1737年から41年にかけて指導したグルックや、ミラノを訪れたモーツァルトとも親交を深めました。フランソワ=ジョゼフ・ゴセック、ヨハン・クリスティアン・バッハ、ヨハン・シュターミッツといった作曲家たちにも多大な影響を与えています。
収録されたチェロソナタは、バロックから古典派への移行期にあたり、魅力的で優美、カンタービレが印象的で、楽器のもつ華やかさに満ちた音楽です。
(日本出版貿易)
ベルナルディーノ・ボッタッツィ(1560-1614):合唱とオルガンのための作品集
フェデリコ・デル・ゾルド(Org)アルベルト・トゥルコ指揮、ノヴァ・スコラ・グレゴリアーナ
ベルナルディーノ・ボッタッツィの『合唱とオルガン』(ヴェネツィア、1614年)は、17世紀前半の典礼のためのオルガン作品を集めたイタリア最大の作品集であり、最もよく知られた音楽集です。この作品は、典礼音楽の新しい規則と仕様を定めたトレント公会議の指示に基づくもので、オルガン曲選集である「コーロ・エ・オルガノ」は、序文と18の注意警告を置き、カノン的対位法の原理を説明し(オルガニストが静止聖歌から作曲・即興する方法を教育する意図)、特定の旋律を減少させ装飾を追加する方法について、いくつかの提案がされています。ルネサンスからバロックへの移行期における、イタリアの聖楽を象徴するボッタッツィの合唱曲とオルガン曲という価値の高い新録音です。
演奏は、シエナのベルナルディーノ教会の貴重な歴史的オルガンを使用しています。既に多くのリリースを行っているオルガニストのフェデリコ・デル・ソルドとアルベルト・トゥルコ指揮のノヴァ・スコラ・グレゴリアーナが、作品への深い理解、献身的な演奏と歌唱を披露しています。また今回も演奏者による学術性の高いライナーノーツにも注目です。
(日本出版貿易)
ピエトロ・ナルディーニ(1722-1793):2台のヴァイオリンのための作品全集
イーゴリ・ルハーゼ(Baroque Vln)アンサンブル・ヴァイオリン・カプリチョージ
ナルディーニは、ヴァイオリンの才能に恵まれ、著名なジュゼッペ・タルティーニに師事し、優れたヴァイオリニストとなったと伝えられています。フィレンツェのレオポルド大公の宮廷で音楽監督を務め、生涯そこで仕事をしました。その表現力は高く評価され、ナポリのフェルディナンド4世とマリア・カロリーナ王妃、モーツァルト父子の前で演奏しています。ナルディーニは、ヴァイオリンが重要な役割を果たすジャンルを中心に、幅広い作品を残しています。作風は、聴きやすいメロディで、シンプルで聴く人に楽しんでもらえるような当時の流行に沿ったものと言えるでしょう。この新録音では、通奏低音を含んだイ長調のソナタや、二重奏曲も収録しているのが興味深く、いずれも非常に魅力的で美しく、楽器の温かみを感じさせる音楽となっています。
ヴァイオリンの演奏は、イーゴリ・ルハーゼ。優雅でしなやか、弦の音色は暖かく、個々の楽章の構成をよく考え抜いた演奏。すべてが心地よいムードを作り出しており、楽しく聴かせてくれること間違いないでしょう。
(日本出版貿易)
ヤン・ティルセン(1970-):アイランド
イェローン・ファン・フェーン(pf)
フランスの作曲家ヤン・ティルセンは、近年大変人気があり注目される映画音楽作家のひとりです。感情豊かな哀愁漂う音楽は、民族音楽、フランスのシャンソン、ミュゼットワルツ、ストリートミュージック、そしてサティ、グラス、ナイマンのミニマリズムなどにその影響が見て取れます。フランスの大ヒット映画『アメリ』の音楽で世界的にブレイクし、その後、『グッバイ、レーニン!』などヒットが続いたティルセン。
この新しいアルバム「Eusa」と「Kerber」は、ティルセンが住んでいる小さな島「ウェッサン島」からインスピレーションを受けて作られた作品です。
「Eusa」はブルトン語でウェッサン島のことで、「Kerber」は島にある小さなチャペルのことです。ティルセンは、この小さな島の孤立感、やせた土地の荒涼とした風景、そして広大な宇宙や星々を眺めたときのこの小さな島の意味合いを巧みに表現しています。
オランダのピアニストでミニマリズムのパイオニア、イェローン・ファン・フェーンは、独特の方法でピアノを弾き、集中し、静謐で深い眠りを誘うかのような効果をもたらします。
カテゴリ : ニューリリース
掲載: 2023年02月16日 00:00