《ブレイク前夜のイチオシ・アーティスト 001》
小さな擦り傷のような「言葉・メロディ・音」のリアリティ
葛藤のきしんだトーンが響いてくる……
【初恋の嵐】 西山達郎: ボーカル/ギター(中央)、隅倉弘至: ベース(左)、 鈴木正敏: ドラム(右)
97年に大学の友人同士で結成された3ピース・バンド。 99年1月に一旦解散するも、翌年再結成。2000年12月、MULE RECORDSより1stアルバム『バラードコレクション』をリリース。 その後、メンバーチェンジによりベースに隅倉弘至が参加。現在の体制が整い、2001年8月、マキシ・シングル『Untitled』をリリースした。 ボーカル/ギターの西山達郎は、カントリーロックバンド=コモンビルに在籍していたことでも知られる。
昨年、1stミニ・アルバム「バラード・コレクション」で初めて初恋の嵐の音を聴いて、僕は少し驚いた。もともと西山君のことは、初恋の嵐より先に、コモンビル(彼がかけもちで参加していたバンド)のベース/ボーカルとして知っていたからだ。コモンビルのレパートリーの約半分を占める彼の楽曲は、ツボを心得た美メロばかりで、苦労して搾り出したのではなく自然と涌き出てきたような、天性の輝きが魅力だった。その彼が全レパートリーを手がけるリーダー・バンドの初恋の嵐は、さぞかしポップにはじけたバンドなんだろうと、僕は勝手に想像していた。
ところが「バラード・コレクション」に収められていたのは「ポップではじけた」とは言い難いゴツゴツとした世界だった。焦燥感をあおるような荒々しいリズム。弾きまくるギターは、雄弁というより「足りないんだ、届かないんだ」と訴えかけてくる。歌詞に描かれた葛藤のきしんだトーンがリアルに響いてくる。もちろん、彼のポップなメロディ・センスは随所に表われているけれど、渦巻く混沌を全速力で振り払おうとしているような感覚がなにより印象的だった。
彼はとても才能のあるミュージシャンだと思う。少なくとも天性のメロディー・メイカーであることは間違いない。けれども、初恋の嵐で彼は、その天賦の才だけではうまく言い当てられない何かを必死で表そうとしているように、僕には思えた。
最新シングル「untitled」はその中間報告と言えそうだ。メンバーも固まり、焦点がグッと絞られつつある、と思う。バンドが一体となってうねり、天性のメロディーがその「何か」を捕らえはじめた。そんな手応えがある。彼らがそれを確かに捕らえた素晴らしい傑作をモノにする日は、もうすぐそこまで来ている。僕はそう思う。