《ブレイク前夜のイチオシ・アーティスト 003》(3)
今はソングライティングの才能を磨きたい
──『くらしのたより』では、ギターやピアノ以外の楽器も全部自分で弾いているんですか。
前園 そうです。いい人が見つかれば手伝ってやってもらいたいんですけど、水戸でやってくれる人がみつからないんですよね(笑)。だから、今回のアルバムは一人で全パートを演奏しています。楽器は借り物なんですけれど。
──ドラムやパーカッションはどのように入れているんですか。
前園 一応シンセをと一番安いサンプラーを持っているんで、その2台をごまかしつつ使って、という感じですね。あとは水戸で『Rock Bottom』というレコード屋の店長をしている佐藤さんという方に機材を貸りたりして。
その佐藤さんはDJもやっている方で、いつもイベントにも出させてもらっているんですよ。地元ではお世話になっている方です。『くらしのたより』を作っている時も、「この曲はこのドラムがいい」みたいなDJとしての視点でアドバイスをたくさんいただきました。
──では、今作はその佐藤さんのカラーが強いんですか。
前園 いや、そういうわけでもなくて。佐藤さんがやってくれたのは僕の主張を元にコーディネートをしてくれるという感じでしたね。あくまでも僕の色を殺さないようにということをまず考えてもらって。良きアドバイザーです。
──2人の信頼関係はしっかりしているんですね。
前園 そうですねぇ。できていると思いますよ。
──ほとんどの曲に鍵盤が入っているじゃないですか。その音の選び方も面白いと思ったんですけれど、音選びに対するこだわりはありますか。
前園 いやー、キーボードは借り物が多いですからね(笑)。「60年代の音に近ずけてみようかな」とも思うんですけれど、そこに辿り着く前にいい音が見つかったりしたらそっちを使いますね。そんなに強いこだわりはないのかもしれないです。
──曲の展開が自由じゃないですか。ポップミュージックのフォーマットとはちょっと違うというか。メロディーの進行が独特ですよね。
前園 それも良く言われるんですけれど、わざと定義からずらそうとは思っているわけじゃないんです。素でこうなっちゃうんですよね。メロディーを活かそう、歌が引き立つようにしようという部分を意識するとこうなっちゃうんです。
──アルバムの曲で最も自分の理想に近い曲はどの曲ですか。
前園 「BALLOON」と「くらしのたより」は今までをふまえた上で出来上がった曲のような気がしますね。自分が蓄積してきた録音技術が活かしつつ、曲調が理想のスタイルを表現できていると思います。
昔は60年代のブライアン・ウィルソンとか全てを自分でやってしまうような人に憧れて、真似してみたいと思った時期もあるんですけれど、ここ1年くらいで「あ、そういうのは無理だな」ともうあきらめました(笑)。 そういう方向に向かうより、だったらまずソングライティングの才能を磨きたいと今は思いますね。 それも中途半端だったら何にも残らないんで。ちまちま悩んでいるくらいだったら1曲でもいい曲を書きたいです。