インタビュー

《ブレイク前夜のイチオシ・アーティスト 003》(4)

自分が見ていないものは歌詞には出てこない

 ──今はもうスタジオで録音されているんですよね。

前園 いや、これ全部自宅のアパートで録音したんですよ(笑)。 隣の部屋からドンドン叩かれて何度も中断をしながら録りました。 家で録音している期間が長いから、どうもスタジオが肌に合わないんですよね。 試したこともあるんですけど、歌入れの時に人にキューを出されるとそれだけでもうダメで(笑)。 自宅で自分でキューを出さないとうまくいかないんです。
 僕の曲は密室感があるじゃないですか。その音の抜けの悪さが昔は悩みだったんだけど、 今はそれを売りにして行こうかなと(笑)。「今後家以外では録音しない」とか(笑)。

──(笑)では、『くらしのたより』は本当にこれまで前園さんがやってきたことをまとめたアルバムなんですね。

前園 そうですね。「SOFT MUSIQUE」と「BALLOON」は、自主制作音源のミックス違いですし。 でも、全体的にミックスとマスタリングをきっちりやってもらっているんで、 出来上がりはかなり違いますけど。

──ちなみに、エンジニアの方はどこで作業されていたんですか。

前園 僕の家です(笑)。機材とMacを持ってきてもらって、 家で作り置きしたカレーを食べながらやってもらいました。 8畳間に男3人こもりながら、1週間寝泊まりして作ったんです(笑)。

──歌詞に関しては、使っている単語が文学的だとか、 特別変わっているという訳ではないのですが、 全体を聴いた後に頭にぼんやりひっかかる詩が多いですよね。

前園 歌詞を書くときには「もっと日常の言葉で耳に残るような歌詞を作りたい」という思いは常に持っていますね。 でも、まだまだ発展途上です。
 はっぴいえんどの松本隆さんとキリンジからは影響を受けていると思うんですけれど、 彼らの歌詞で引っかかる部分は造語的な単語であって、それは常用語じゃないじゃないですか。 僕がそれをそのままやってしまうのはつまらないと思ってたんですよ。 例えば、70年代以降のアイドルや歌謡曲─阿久悠さんなんかの作詞は普段使うような何気ない言葉を使っているのにずっと頭に残るじゃないですか。 そういうスタイルに近づいていきたいですね。

──風景描写が多いじゃないですか。 僕が聴いてイメージした風景というのは都会の街というよりも田舎の自然がある風景だったんですよ。 その辺は水戸で生活している影響が出ているのかとも思ったのですが。

前園 んー、水戸というよりもそれ以前に暮らしていた鹿児島かもしれないですね。 おそらく、自分が見ていないものは歌詞には出てこないと思いますから。 のんびり育っていますから歌詞に出てもおかしくないですよね(笑)。

──今後東京に住む予定はあるんですか?

前園 それは無いと思います(笑)。 向こうでやっている月一のイベントを含めて、水戸のほうが環境が整っているんですよ。 こっちに出てくる人たちはそういうものが無いから来るんだと思うんですけれど、 僕の場合はもう東京に来る理由がないんです。

──宅録というスタイルで続けるにはいろいろ制限がありますよね。 ライブでもできることが限られてきますし。

前園 スタイルにこだわりを持っているわけではないので、 楽曲が良くなるのであれば新しいこともどんどん取り入れていきたいですね。 今のスタイルも周りに一緒にやる人が見つからなかったからやっているという、 あくまでも結果として取り入れた手法ですから。今後はバンドで一発録りなんかもやってみたいです。 あとは、もっと大きな場所でライブもやってみたいですね。こう見えて人前で歌うことは好きなんで(笑)。

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2002年06月27日 18:00

更新: 2003年03月07日 19:28

文/原田★星