インタビュー

Rasmus Faber

駆けていくのは美しい旋律、降ってくるのは爽やかなグルーヴ……ラスマス・フェイバーの世界はトキメキで溢れている!!


〈オシャレ!〉――とにかくラスマス・フェイバーの音楽を表現するにはこの一言がピッタリなのである。大ヒットした“Ever After”を筆頭に、ブルーアイド・ソウルの最新アップデート版と呼べるほどの完成度を誇るキャッチーかつメロディアスなハウスチューンの数々。それらには、6歳からピアノを学び、最初の(なのに完成度の高い)ハウス・トラック“Never Felt So Fly”を制作する以前はジャズ・ピアニストとして活動していた……というキャリアが大きく影響している。

「確かにあの曲は、僕が初めて作ったハウスだけど、長い間ミュージシャンとして作曲やアレンジはやっていたからね。楽曲制作っていうのは、アイデアを録音して最終形にするという行為だから、実は僕にとって大きなステップではなかったんだよ」。

 そんなハウス~クラブ・シーンとは無縁の地点からキャリアをスタートしたというフレッシュさが、彼の楽曲の瑞々しさに大きな影響を与えているのだろう。

「僕が10代だった頃、音楽のキャリア的にも最初のほうにハウスとは出会ったんだけど、当時はハウスを取り巻くシーンに関して何も知らなかったんだ。ハウスっていう音楽は、いろいろなジャンルの音楽を自由に採り入れて実験できるカテゴリーだと思っている。僕はジャズの勉強をしてきたけど、ファンク、ソウル、ディスコ、アシッド・ジャズ……といった多様なジャンルの仕事をしてきたし、ハウス・ミュージックはそれらの要素をすべて受け入れてくれるものだよね」。

 さらには、「実はそんなにクラブには行かないんだ。自分がクラブでけっこうプレイするせいかもしれないね。スタジオで制作する時間が必要だから、DJもそんなにブッキングしないようにしている。それに、DJプレイが音楽の制作過程に影響を及ぼさないように注意してるんだ」と、DJ上がりのアーティストからは絶対出ないような発言も飛び出す。

「僕は最初からクラブ人間ではなかったから、〈クラブのため〉というより、〈音楽のため〉に制作活動をしていると思う。クラブでのオーディエンスの反応っていうのは瞬時の出来事だったりするよね。ピーク・タイムもそうだ。でも僕は、僕の音楽が瞬時だけではなく、人々の記憶に残ってほしいと思っているんだよ」。

 そんな考えが、世界中のDJがプレイするわ、何十ものコンピに収録されるわ、何回も再プレスされ続けるわで凄まじい大ヒットとなった“Ever After”を生んだ原動力だったのではないだろうか。

「そうだね。もちろん僕もあの曲には何か特別なものが宿っていると思うよ。その特別なものとは、音楽を通じた僕の〈自己表現のプロセス〉のひとつなんだと思う」。

 ともあれ、彼の〈高級ハウス〉とも呼べる洗練性とハイセンスぶりは、匿名性の強いハウス・シーンにおいても異色であり、特に日本ではセンスの良さを計るリトマス試験紙……というより、すでに安定銘柄となっている。シングル曲を集めた今回のアルバム『So Far』でそれが一般常識となることは決定的なのだ。

「そう思ってもらえるのは凄く光栄だよ! 僕も実は日本のオーディエンスとは非常に特別な繋がりを感じているんだ。上手く説明できないんだけど、旋律を感じ取る感受性みたいなものが似ているのかもしれないね。そういった特別な繋がりが音楽をより豊かなものにすると思っているし、みんなが僕を匿名のプロデューサーではなくて、ひとりのアーティストとして見てくれたら嬉しいな」。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2006年05月25日 23:00

ソース: 『bounce』 276号(2006/5/25)

文/石田 靖博