インタビュー

Jesse Harris

NYの天才が描き出す美しいメロディーと飾らない言葉を感じよう!


 8年間に7枚のアルバム。実に多作なのだが、「僕には自然なペースなんだ」とジェシー・ハリスは笑う。

「いいメロディーと詞が思い浮かべば曲は書けるし、アルバムを作るに足りる曲数が揃ったらすぐレコーディングして次に進むのさ」。

 マイペースながら旺盛な創造欲を誇るこの生粋のニューヨーカーは、今年で38歳になる。もともとワンス・ブルーというバンドで95年にデビューし、3年後にソロに転向。NYのジャズ界に軸足を置いて活動を続けてきた。そんなジェシーの名を知らしめたのはご存知、彼が5曲を提供したノラ・ジョーンズのデビュー作『Come Away With Me』。うち“Don't Know Why”がグラミー賞の〈ソング・オブ・ジ・イヤー〉を受賞してから4年が経つ今年、7枚目の新作『Feel』がお目見えした。

 ロック、フォーク、ジャズ、ブラジル音楽など幅広い守備範囲をもとに、素朴な作風に繊細なニュアンスを織り込む彼が、本作のテーマに挙げるのは「ブラジル」だ。最近たびたび訪れて魅力を再発見したそうで、「サンバやショーロのリヴァイヴァルが起きていて大いに刺激を受けた」と話す。そこでジェシーが相談を持ちかけたのが、NY在住のブラジル人パーカッショニスト、マウロ・レフォスコだ。

「当初考えていたブラジル録音こそ諦めたけど、旧知の仲間と作った〈NYアルバム〉でありつつも、マウロの存在が明確なキャラクターを与えてくれたよ」。

 なるほど、全編をかすかに覆うリズムはまぎれもなくブラジリアン。けれど彼らしいルーツィーな要素は健在で、普遍的な題材をシンプルな言葉で描く筆致も変わらない。

「僕はセラピー代わりに曲を書くタイプじゃない。私的なゴタゴタは日記に吐き出してるからね(笑)。自分で歌うことを前提に書くんだけど、最終的には作者の手を離れて生きていける曲をめざしているのさ」。

 そして“Don't Know Why”のように、他人が自分の曲をヒットさせることも歓迎する。

「アメリカで成功するのに必要なエンターテイナー的な部分を僕は備えていないから、商業的アーティストにはなり得ないと思う。それにNYにはいっしょに音楽をプレイできる才能豊かな人たちが大勢いるし、何ら不満はないよ」。

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掲載: 2007年07月12日 17:00

更新: 2007年07月12日 17:38

ソース: 『bounce』 288号(2007/6/25)

文/新谷 洋子