Ann Sally
2児の母となり、いっそう張り切る肝っ玉シンガーが、新境地を見せる新作をリリース!
目の前のAnnさんの腕のなかでは、スヤスヤと子供が眠っている。生まれたばかりの第2子も交えてのインタヴューだ。さて、新作『こころうた』は出産後の初制作となるアルバムで、当然ながら母の目線で描かれた楽曲がいくつか含まれているが、そういう類いの曲が彼女の手によるオリジナル作だという点がトピックである。これまでカヴァー作を作り続けてきた彼女にとって、これは新境地と言える。
「自分が出産したりという特殊な状況だったせいもあるんだろうけど、今回は〈これだ〉ってしっくりくる曲がなくて、だったら自分で作っちゃえって。で、デモテープを聴かせたら、みんながすごい良いよって言ってくれて。まぁ、人に喜んでもらえるのは嬉しいなぁというのをきっかけに、どんどん入れていった。ただ、ウケを狙うって発想がもともとないから、結果は渋い内容になったけど(笑)」。
実際、彼女の楽曲は今回カヴァーしたママ・キャスやミルトン・ナシメントの名曲と比べても引けを取っていないと思う。軟質なメロディーが歌声にフィットして実に柔らかい世界を描き出している。また、そういう路線だけではなく、“遠い日の子守唄”のような硬質な感触の曲も。そのへんのバランスに関してはかなり意識を働かせたようである。とにかく本作がいいと思う点は、歌や楽曲における〈泣き/笑い〉のレンジの広さだ。
「前からアルバムには〈泣き笑い〉の要素を入れたかったけど、なかなか受け取ってもらいにくくて……。いつも〈癒し系でソフト・ヴォイス〉というキーワードがついてくる(笑)。もともと黒人音楽が好きなんだけど、ああいう音楽が孕んでる陽気さと暗さが共存した表現がなによりも好きなんですね。辛辣なことを爽やかに歌う人になりたい。それを今回推し進めてみようって気持ちはあった」。
「ほんと、絶望的なアルバムが作りたくて」といたずらっ子っぽく微笑む彼女だが、その発言と抱いている赤ちゃんのコントラストが何とも愉快だった。とはいえ、母性的な大らかさを感じさせる本作は、きっと幅広い層の女性たちに支持されるのだろうな。あと“のびろのびろだいすきな木”のような子供たちに喜ばれそうな曲もある。だけど、俺みたいな子持ちの30代のオヤジのココロを掴む不思議な魅力にも溢れてるんだな、この『こころうた』は。
「ライヴで目の前にブルース音楽オタクみたいな人がいると、もう嬉しくなる。雰囲気系かな?と思って聴いてみたらすごく汗をかいているのを感じる、とか言われたらなかなかいいなと思うんですけど。オジサンの心をくすぐるものがやりたいと思うんですよね。私生活で仲良くなりやすいのはオジサンだし。趣味が合うというか(笑)」。
オジサンごころをくすぐるっていうか、仲良く肩を組んでくれそうなムードがあるんですよ、Ann Sallyの音楽って。
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カテゴリ : インタビューファイル
掲載: 2007年08月02日 15:00
更新: 2007年08月02日 17:30
ソース: 『bounce』 289号(2007/7/25)
文/桑原 シロー