nhhmbase
変拍子に次ぐ変拍子と、自由過ぎる軌道を描くメロディー。一見奇抜な音楽的要素で構成されていながら、リスナーの耳にはひどくシンプルなポップ・ミュージックとして響く――そんな衝撃のデビュー・ミニ・アルバム『nhhmbase』から約2年。nhhmbaseが待望のファースト・フル・アルバム『波紋クロス』をリリースした。54-71のリーダー=川口賢太郎とストロークスや8otto仕事などで知られるヨシオカトシカズから成るプロデューサー・チームによって、スタジオに拉致監禁、5日間でレコーディング~ミックス~マスタリングを終了させ(られ)たという本作は、流血も辞さないハイテンションのライヴに定評のある彼ららしく、楽曲自体の構築美を生々しいプレイで再現した傑作だ。
というわけで、編集部は早速ソングライターであるマモル(ヴォーカル&ギター)への取材を敢行。……したのだが、インタヴューというよりは、レコーディングの際のトラウマが残った(?)彼を囲む慰労会のような様相に。以下に続くのは、そんなある日の渋谷、真っ白い小部屋のなかの一部始終である。
ビートルズのファースト的な感じ
――さっき、なんとなく品番を見てたんですけど、nhhmbaseのデビュー・ミニ・アルバム『nhhmbase』って、Youthの1作目なんですよね。それで、今回のフル・アルバム『波紋クロス』は52作目。
マモル あいだに50作品入ってる(笑)。
――まず、その50作品のあいだは何をやってたんですか!? ……ってことですが(笑)。
マモル (作品を)出すつもりでプリプロは2、3回録ってたんですよね。完パケしたのもあったんですけど、いまいちクオリティーが低くて却下したり。結局は、演奏技術が足りない(笑)ってことで一から基礎練習をやり直して、今回の音源に臨んだ感じですね。
――スポーツで言えば、まずは腹筋から、みたいな(笑)。
マモル ホントにそうですね(笑)。クオリティーを落とさないように、いまでも毎日腹筋させてる感じですね。ベースとか、去年の秋ぐらいから54(-71)のリーダーにコーチをやってもらってたんですよ。〈ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド〉みたいな練習から(笑)。それはもう、3時間ぐらいクリックに合わせてやらせたりとか。
――では、みなさんぼんやりしてたわけじゃないんですね。
マモル そうですね。僕は……すごいがんばってました(笑)。曲作ったりとか、構想練ったりとか。
――今回は一発録りですよね? 技術的な面がネックでせっかく録ったものが何度かお蔵入りになってたのに、勇気要りませんでした?
マモル そうですよね。すんごい危ない橋ですよね。強引なプロデューサー・チームによって、押し出されたって感じですかね。「お前ら、ライヴがイイって言われてんだろ? 一発録りでやるよ」って言われて、「俺らライヴがイイから、一発録りでいいんだ」って思い込まされて。
――思い込まされて(笑)。
マモル はい(笑)。5日間で、うちらのベスト・テイクみたいなものを半強制的に録られた感じですね。「とりあえず弾いてみろ」って言われて弾くじゃないですか? で、一曲録り終えると「よーし、イイ! じゃ、次!!」って無理やりテンションをアゲられて。「えっ、間違ってるけど、ホントにいいんスか?」ってうちらが言うと、「ミスぐらいいいんだよ、生々しくて」って(笑)。最初はクリックに合わせて、ブースも分かれて録って、間違えたら録り直しとかできるもんだと思ってたんですけど、そんなこと一切させてもらえず、全員同じ部屋でレコーディング(笑)。「お前ら、クリック使ったら男じゃねえぞ」って言われて、僕らはリーダーとトシさんが怖いから、「はい」って(笑)。
――じゃあ、この紙資料にある〈監禁〉っていうのは……。
マモル 嘘じゃないですよ(笑)。精神的にはもっとヒドイ。もう、プライドが完全にズタズタにされましたね(笑)。真っ裸で斬りつけられた感じ。僕らがネハンの楽曲に対して思い描いていた像っていうのが、今回は真逆の形でパッケージされたっていう。だから僕もメンバーも開き直りに近い状態で、最大で2テイクしか録ってないんです。それのどっちかしか使えないっていう状態で……。
――……すごいですね(笑)。
マモル 「2テイクで力を出し切れなかったら、それがお前らの現実なんだよ」っていう状態で。甲子園みたいな感じです(笑)。いまの時代ってソフトで編集できるから、自分の理想に近い状態で音楽を再現することって、すごい簡単だと思うんですね。なのに敢えてそれをしない(笑)、っていうことをリーダーとトシさんはやりたかったんじゃないかな。ネハンが隠し隠し書いてきた、もう好きな人の名前とかも書いちゃってる交換日記みたいなもの(笑)を強引に録ってリリース、みたいな……ホントに全部曝け出しちゃってますからね。だけど最近は、音源って、そういう状態で出すべきものなのかな?って逆に思い始めてきていて。クラシックにしてもジャズにしても、昔は編集できなかったから、ライヴ録音とかが中心じゃないですか。その日の、その温度の、その状態の音を出すっていう意味では、ビートルズのファースト的な感じというか。ミステイクがあっても、それがファンのあいだでアツいとされる音源になればいいかな、って。今回の作品は、すごく想像力が働く音源だと思いますよ。音像もモノラルで、情報が一個しかないですけど、メロディーがあるところではメロディーが立つし、リズムが面白いところではリズムが立つし、コード感がおもしろければコードが伝わるし。そういう突き抜けてる部分が、そのところどころでリスナーさんにちゃんと聴こえてくれればいいかな、って。
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