インタビュー

サカナクション(2)

「恥ずかしさと格闘すると、結果的に出てくるものはアイデンティティーなんです」

――ニュー・アルバムの起点となった“セントレイ”は、ベースの草刈(愛美)さんがアレンジを担当してるんですよね?

山口 そうですね。今回のアルバムでは5人全員にアレンジを担当してもらったんですけど、まず最初に「ミックスはこんな感じにして欲しいんだ」って大体のイメージを伝えるんです。それからは、出来てきたデモをもとにマンツーマンでやり取りしながら形にしていくんですけど、“セントレイ”のときは、草刈に「ギター・ロックのようにして」ってリクエストしたんですよ。そうしたら、上がったきたものが正真正銘のギター・ロックだった(笑)。「何、これ? めっちゃギター・ロックじゃん! サカナクションじゃないじゃん!」みたいに思ったんですけど、何か引っかかってて。「これ、ちょっと変えたら僕らが狙ってるところにいけるんじゃないか」っていう感覚があって、メンバーと話をしながら少しずつ変えていったら、結果的に“セントレイ”っていう楽曲ができた。いままでだったら、草刈に「それはないわ」って言って終わってたのが、前向きに形にできたっていうことが、すごく大きかった気がします。

――この曲は、音をバラして聴くと、パートごとにおもしろいことを演ってますよね。ギターの音も、ハード・ロックか!?っていう域に達してますし。

山口 うん。岩寺(基晴、ギター)がオクターブでギター弾くのって、高校以来見たことがなくて(笑)。この曲のために、ギター買わなきゃダメだね、ぐらいの話をしてて。それぞれ挑戦がありましたね。音楽的なパーソナル・スペースをどこまで広げられるか、っていう。そことの格闘だったのかな? 恥ずかしさとの格闘というか。

――直球で演ることとの格闘?

山口 そうですね。たとえば、「俺は黒のダウンしか着ない」って言ってるやつに、「ちょっとピンクのダウン着てみろよ」って着せてみるような感じ。すると、やっぱりみんな、「えぇ~? ピンク~? (いやいや着てみる仕草)何か違うよなー」っていう反応をしますよね? そこに僕は、「でも、結構似合ってるよ?」って言ってみるんです。そうすると、みんなも「それもわかるんだけど……一回、ピンクのダウンで出掛けてみるかな?」っていう気になる。で、そのうちに「意外と見慣れてきたかも」って言い出す感じ(笑)。そういう葛藤が全員ありましたね。「真っピンクはちょっとキツいから、ちょっとトーン落としていい?」とか、「ロゴをもうちょっと渋くしていい?」とか、ピンクのなかでも自分なりのアレンジをしていくことが、みんなのなかで求められてて。そういう意味では、「これだったらアリ」みたいなラインがみんなで一斉に引けるようになりましたね。

――ポップ感に対するラインですね。

山口 そうですね。この格闘って、結果的に出てくるものはアイデンティティーなんです。真っピンクがホントに好きな人が真っピンクを着ても、そこにアイデンティティーだったり、奥行きだったり、人となりっていうのは出て来ないと思うんですけど、真っピンクを着ることを恥ずかしがって、何とか着ようとして出てくるものはやっぱり個性だし、独自性になっていくんです。最終的には、それがサカナクションらしさになっていく。

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掲載: 2009年01月08日 18:00

更新: 2009年01月08日 23:05

文/土田 真弓