サカナクション
テクノを前面に押し出したバンド・サウンドとフォーキーなメロディー、情感豊かな言葉を掲げ、アンダーグラウンドとオーヴァーグラウンドのあいだを果敢に歩み続けるサカナクションが、サード・アルバム『シンシロ』を完成させた。自らのポップ感と対峙した先行シングル“セントレイ”を起点とした本作において、彼らは極彩色で縁取られた独自のニューウェイヴ解釈を披露。ロックとダンス・ミュージックの架け橋となる先鋭的なサウンドと人間味溢れる歌によって、頼もしいネクスト・ステップを踏んでいる。
そんな彼らの最新作を、bounce.comでは3週に渡って大フィーチャー。その第二週目では、先週の単独インタヴューに引き続いてソングライターの山口一郎(ヴォーカル/ギター)が登場。全11曲に込められた想いや制作時のエピソードを語ってもらった。
――Ame(B)
※「今回のアルバムのなかで好きな曲は?」「リード曲はどれだと思う(取材時点で、まだ発表されていなかった)??」といった山口からの逆質問タイムを含め、インタヴュー開始からすでに1時間以上経過……(前回のインタヴューはこちら!)。
――え~、そろそろ全曲解説に移りましょうか。まず“Ame(B)”は、ド派手なコーラスワークがまさにオープニングにぴったりかと。あと、個人的にはこの曲、メタルに近い感覚があるんですよね(笑)。
山口一郎(以下、山口) ああ、はい(笑)! そうですよね。プログレッシヴな方のメタルね(笑)。この曲は、サカナクションらしさの一部分を明確に提示している曲だと思うんですけど、元々は普通のフォークソングとしてあった曲なんですよ。アレンジを担当したのは岩寺で、3回ぐらい作り直してもらいました。最初に岩寺が作ってきたときは構成が複雑過ぎて、それこそプログレッシヴな感じだったんです。それを簡素化する方向で調整に入ってからは、完成まで早かったですね。で、最終的に僕が「合唱コーラスを入れるんだ!」って言い出して。
――“ナイトフィッシングイズグッド”に続く、いい意味で大仰というか、ユーモアが感じられるコーラスですね。
山口 そうですね(笑)。「こうしたらバカじゃない?」とか話しながら、岩寺とふたりでコーラスをどうおもしろくするかを詰めました。“ナイトフィッシングイズグッド”のときは草刈、岡崎、岩寺で歌ったんですけど、女性の声が入っちゃうとかわいい感じに……合唱コンクールになっちゃうから、今回は反省して岩寺の声の多重録音(笑)。たぶん、そこがメタルっぽさに繋がってるんだと思うんですよ。
――シングルの取材のとき、展開がおもしろい曲にぶち当たると爆笑するっておっしゃってたじゃないですか。そういう意味で、この曲には爆笑ポイントが満載だと思うんですが(笑)。
山口 そうですね(笑)。これは1曲目にするしかないよね、って話になって。僕たちが思う〈ふざけたダンス・ロック〉を作りたかったんですよ。ライヴも想定すると、歌なしの“Ame(B)”をSEにしてみんなが出てきて、セッティングができた段階で「アメ!!」って歌い出す(笑)。〈ダッダッダダ!〉(アウトロへ突入する瞬間、全員が同じリズムを刻む箇所がある)のところで、すごくアグレッシヴなダンス・ミュージックになるみたいな。
――想像するだけでおもしろい(笑)。ツアーを楽しみにしてますね。
――ライトダンス
――では、続いて2曲目の“ライトダンス”ですが。
山口 アレンジを担当したのは岡崎なんですが、彼女はダンス・ミュージックや電子音楽と出会ってからまだ日が浅いから、曲を俯瞰で見れないところがあったりするんですよね。だから、最初に作ってきたときはもう、軍歌みたいになってて(笑)。「手に不安/握り見た景色がデジャヴした~♪」(と、振り付きで相当勇ましく歌う)って感じだったんですよ(笑)。
――(爆笑)。ありがとうございます(笑)。
山口 “スイス軍行進曲”のような感じならまだいいけど、そうでもないから「もうちょっとニューウェイヴな感じにしたいんだ」って説明をして作り直してもらったんだけど、なかなか出来なくて。ある程度出来た段階で、「これを実際バンドで演奏したらどうなるかやってみよう」って試してみたらやっぱり軍歌になったから(笑)、これはもう、大きく変えようと。ベースの音域を上げてみたりとか細かく調整していくなかで、僕は何とかゴダイゴの現代版みたいになったらと思ってて。いろいろ試行錯誤したんですけど、結果的に「こんな曲やってるバンド、いねえな」っていう曲が出来たと思います。歌詞も「これがサカナクションだ。よし、行こう!」っていう感覚が全開ですね。〈よりサイケな〉って言っちゃってもいいんじゃないか、って。
――サイケをサカナクション的に解釈した感じ?
山口 ニュー・ニューウェイヴですね。
――『シンシロ』では、そのニュー・ニューウェイヴ的なアプローチの曲って結構多いですよね。
山口 そうですね。まだ日本ではあんまりいないけど、海外ではまた、ニューウェイヴっぽい音楽がかなり出てきてますよね。「最近、ポリスみたいな曲のバンド多いな」って思うし。だから、今回のアルバムも方向性は間違ってなかったんじゃないかと思うんですけど、実は、もっと先に行っておきたかったとも思っていて。で、その一歩先っていうのが、さっきも話に出たメタルなんですよ。ド・メタルじゃなくて、もうちょっとふざけてる感じ……メタルを現代版としてやっていくと、結構ニューウェイヴに近づいていく感じがあって。
――ありますね。電子的な手法でメタルをやると、そうなりますよね。
山口 そうそう、僕もホントにそう思ってて。そこにトライしてる人って日本ではあまり見かけないけど、エド・バンガーのコンピとか聴くと「うわ、バカじゃん! でも超カッコイイ!!」ってアレンジを普通にやってる(笑)。これはもう、ヘヴィメタのダンス・リミックス・アルバムじゃないかと(笑)。それをやろうと思ったこともあったけど、いまのサカナクションとはちょっと違うような気がして、今回は止めました。だけど今回のアルバムのなかでは、“ライトダンス”と“アドベンチャー”はある意味メタルですよ(笑)。(ドラムの)キックの裏で(ほかの楽器の音が)出る、みたいな。細かくアレンジを練ってるから、ニューウェイヴな感じに聴こえるかもしれないけど。
――あと、この曲はシンセのオリエンタルなフレーズも印象的ですよね。
山口 そうですね。サカナクションには、オリエンタル感みたいな味があるんですよ。メンバーには「アジアっぽいリフ弾いて」とか、「チャイナっぽいシンセにして」っていう表現を使うんですが、それはYMOとかゴダイゴとかがよく使っていた手法で。火が点きかけて消えていったシーンだと思うんですけど、僕は、そこをリヴァイヴァルしたいなと思ってるんです。“ライトダンス”に入っているシンセやギターは、結構オリエンタル感を意識してます。“human”とかもそうですね。
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