サカナクション(4)
――涙ディライト
――続いては“minnanouta”の発端となった“涙ディライト”ですね。
山口 これは岩寺が結構長い時間をかけてアレンジした曲で、相当キツかったと思います。何回も作り直してもらったし。でも最終的に僕が目指してたところにすごく近づけてくれたんで、岩寺としても達成感はあるんじゃないかな。中盤でちょっと変わった構成になる部分とか、僕のなかのフレンチ・ハウスと岩寺のなかのフレンチ・ハウスがすごく一致した曲ですね。
――何というか、女子ウケが良さそうなポップさがありますね。
山口 メロディーの良さがよく出てる曲ですね。
――アドベンチャー
――“アドベンチャー”は、資料によると完成までかなりの紆余曲折があったようですね?
山口 そうですね。サビのメロディーにピピッときていて、東京に引っ越す前からリード曲のつもりで作ってたんですけど、完成しないままこっちに持って来ちゃって。すんなり出来るかなって思ってたけど、なかなか出来なかった(笑)。「もうお手上げだ~」って思ってたときにヘヴィメタのリミックスを聴いて、この手法を使えばダンスっぽくなるんじゃないかと。コンプを使って(ドラムの)キックが鳴ってるときは(ほかの)音が鳴らなくて、キックが抜けたところで(ほかの)音が盛り上がるっていう感じにしてみたら、「はい、出来た!」って。Bメロには歌を入れずに、大きく展開してサビに流れ込むところもきれいに出せたなって思います。
――ワクワク感を誘うサウンドそのままに、歌詞も前を向いてますよね。
山口 はい。これからの僕の――サカナクションの道筋をダイレクトに歌えたというか、楽曲の勢いにのせられて言葉を吐き出したっていう感じですね。振り返ると、サビの歌詞とかはやっぱり、まさにいまの自分の心境だなって。今回のアルバムを作るにあたってのテーマは〈冒険〉だったから。
――サカナクションの味であるオリエンタルなエッセンスも採り入れられてますし、聴き手を引き込む力強さがありますね。
山口 “セントレイ”が好きな人は、たぶん“アドベンチャー”も好きなんじゃないかな。ライヴでも盛り上がると思いますね。
――human
――いよいよ最後の曲ですが。
山口 この曲は、アルバムのリード曲になったらいいなって思ってたぐらいに壮大な曲。“human”っていうタイトルも、すべてを言い尽くしてる。〈人〉っていう大きいテーマを掲げるだけあって、『シンシロ』のなかでも特に重要な曲ですね。
――ピアノとギターがほぼ全編に渡ってチャイナ風の同じフレーズを追いかけているところが印象的ですね。
山口 そこがまず出来て、この曲の流れが決まっていったというか。岩寺と岡崎って、いっつも音がぶつかり合うんですよ。同じポジションだから、絡むことはあっても馴染むことはあまりないんですよね。でも、この曲に関してはどっちも同じことを弾いてるから、馴染まざるを得ない。それならどういう音飾にして、どういうアプローチをするか。その道筋を一本作ったら、結構早く出来ましたね。
――その一方、壮大なコーラスワークがサビ~ラストを盛り上げた後に、それまで寄り添っていたピアノとギターが不協和音を奏でますよね? 単に美しく終わらないところが、まさに“human”なのではと。
山口 元々、ラストにはコーラスが入らない予定だったんですけど、レコーディングのときに遅れてスタジオに行ったら、もうコーラス録りしてたんですね。僕、風邪をひいてて熱が38℃ぐらいある状態で、「この曲って、コーラス入れるんだっけ?」って確認されたときも、ボーッとしながら「ああ、入れるか」って答えてたっていう(笑)。それで岩寺にその場で考えてもらって、「ここ要らない」とか「ここ休符入れて」とか言いながら調整して出来上がったのがいまのコーラス。僕の具合が悪くて、スタジオに遅れて行ったことで生まれた奇跡のコーラスです(笑)。この曲は、出来たときに「これが最後の曲だ」って思いましたね。ギターの不協な感じの音が出来て、「これで終われれば完璧だ」って。
――11曲振り返ってみて
――全曲を振り返ったわけですが、メンバーの皆さんとは今回の作品について何か話し合ったりしましたか?
山口 作品に対しての話し合いはしてないですね。ひとりひとり面談はやりましたけど。
――面談?
山口 ひとりずつウチにきてもらって、「今回の制作どうだった?」って訊いてみたり。その上で「今後どうしていこうか?」っていう話はしましたけど、「アルバムを総括してどう?」みたいな話はしてないですね。まず、僕からしてわかってない(笑)。
――では、今回の作品をとおして、ご自身で実感している変化や成長などはありますか?
山口 僕自身としては、責任感が湧いてきた部分はありますね。みんなを東京に引っ張って来て、人生を変えたのは僕だから、みんながちゃんと音楽をやれるような状況を作らなきゃいけない。そういう責任感が生まれたのは大きかったかな。昔の僕は、こんな人間じゃなかったですからね。もっと重心をドカッと置いて、「違う」と思ったら完全否定する古い人間だった。でも最近はみんなの意見をきいて、それぞれのやりたいことを尊重しつつ、バンドの道筋を作っていこうとしてる。芯となる部分は曲げずにね。今回のアルバムをとおして僕自身が一番成長したところは、人の話をきく人間になったっていうことですかね(笑)。我ながらビックリしてます(笑)。
※来週は、メンバー全員による座談会(という名の反省会!?)をお届けします!!
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