MASS OF THE FERMENTING DREGS 『ワールドイズユアーズ』 AVOCADO
ファースト・アルバム『MASS OF THE FERMENTING DREGS』の取材で2007年の暮れに初対面して以来、彼女たちに対する印象はまったく変わらない。ピュアだなあ、と思う。ステージにおける観客との距離感、ブログで吐露している日々の想い――2人はいつでも目の前にいる人々/ある事柄に対して、不器用なまでに真っ直ぐだ。
中尾憲太郎(元ナンバーガール、SPIRAL CHORD、SLOTH LOVE CHUNKS)を共同プロデューサーに迎えたセカンド・アルバム『ワールドイズユアーズ』は、そんな彼女たちのオープン・マインドを音にそのまま写し取ったかのごとく、多くの聴き手にしっかりとコネクト可能な〈開かれた〉サウンドに仕上がっている。90年代のオルタナティヴ・ロックを下敷きにしたソリッドな音塊と、猛々しく牙を剥く轟音。その向こう側で揺らめくフェミニンなセンチメンタリズム。前作に見られた獰猛かつ鮮烈な美点は“かくいうもの”“She is inside, He is outside”“なんなん”あたりに色濃く引き継がれつつも、やはり本作において特に耳を奪われるのは、完全なる新曲として制作された“そのスピードの先へ”“ワールドイズユアーズ”“青い、濃い、橙色の日”の3曲だ。タフなビートもフィジカルなグルーヴも〈歌を中心に〉という明確な意志のもとで巧みに編み上げられ、メロディアスかつドラマティックなギター・ロックが圧倒的なスケール感をもって鳴り響いている。寂寥感を伝えるシンプルな歌世界が、果てしなく増幅されて聴き手の胸に突き刺さる。
〈世界は君のもの〉と歌うことであらゆる人々の存在を無意識に肯定している彼女たちの大らかさは、そのまま音楽家としてのポテンシャルの高さに比例しているのではないか。野性味溢れるダイナミズムと聴き手を選ばないポピュラリティーとが軽やかに結び付いた本作を聴くにつけ、そう思わずにはいられない。