インタビュー

HANDSOMEBOY TECHNIQUE(2)

ビートを強調するのは重要じゃない。グルーヴがあればいい

――サンプリングを駆使したHANDSOMEBOY TECHNIQUEの作風自体が、リミックスという手法に見合ってると思うんです。だから、いろんな人が森野さんにリミックスをオファーするんじゃないかと。実際、どのリミックスも原曲の魅力を活かしたものになってますよね。

森野 リミックスしてるときも自分の曲を作ってるときも、意識や実作業はあんまり変わらないんですよね。

――そういう意味では、リミックスひとつにしても大変なのでは(笑)。

森野 リミックスも1曲1か月ペースでやってましたからね。どうしてもそれくらいかかるんですよ。それでアルバムがなかなか作れなかったというのはあります。

――他からのオファーをこなしているうちに、1年2年と経ってしまった。

森野 はい。それで、2007年の末くらいから今回のアルバムの制作に入って、2008年を丸々レコーディングに当てた感じです。

――そして新作の『TERRESTRIAL TONE CLUSTER』なんですけど、まず音の質感がだいぶ変わった印象を受けました。前作ほど、ザックリしたネタ感が前面には出てないように感じたんですが、今回はどの程度サンプリングを使われてるんですか?

森野 ほぼサンプリングで作ってますね。前作が95%サンプリングだとしたら、今回も85%ぐらいですよ。シンセを弾く割合がちょっとは増えてますけど。

――そうなんですか!? それは……びっくりですね(笑)。とてもサンプリング主体には聴こえない。というか、どうやって作られてるのかよくわからない音ですよね。

森野 そう言われると嬉しいです。確かに、今回は楽器をたくさん弾いてるんじゃないかってよく言われますけど。

――以前よりもネタを細かく組み合わせてるってことなんですか?

森野 そうですね。機材が変わったんです。以前は、AKAIのサンプラーとローランドのシーケンサーという、ほんと90年代って感じの機材で作ってたんですけど、今回はPCをベースにしたんで、できることが広がった。これまでだったら諦めてたような音の処理ができるようになったんで、それでさらに細かく作り上げていきました。

――ということは、膨大な量のネタが必要になりますよね。

森野 パソコンにネタになりそうなものを取り込んでいて、それがもう5,000曲分ぐらいは入ってるんですよ。ベースとかスネアとか、ソフトロック系とかアバウトに分けていて。曲を作ろうと思ったらそこから探してくることが多いですね。

――スネアとか、ストリングスの断片とか、それぐらいの細かい単位でサンプリングしたものを構築していく。

森野 そうです。何やってんだろうって感じですよね(笑)。バンドをやってたこともあるし、ギターとかベースとか、シンセも弾けるんですよ。自分で弾けばいいのになあと思いながら、サンプリングで作っていく。

――そこまでサンプリングにこだわるのは何故なんでしょう?

森野 サンプリングした音の質感が好きっていうのもありますけど、細かいものを組み合わせて、重ねて、作り上げていく過程が単純に楽しいんですよね。大変なんですけど、完成したときの喜びがデカいし、おもしろいものが出来る。とは言っても「一生サンプリングでやっていくぜ」って思ってるわけではないんですが。

――これまではヴォーカルもサンプリングで入れてましたけど、今回は実際のシンガーやラッパーを起用されてます。

森野 それもやっぱり、もっと細かく、より自由に作りたかったからですね。歌ものをやりたいと思ったときに、サンプリングだと限界がありますから。

――それから、今回は前作に比べるとビートを抑え目にしているように感じました。

森野 そこはミックスのときに、結構意識したところですね。

――それは、どういう意図だったんでしょうか。

森野 うーん……なんでしょうね(笑)?  クラブ・ミュージックっぽくするのを止めようと思ったわけでもなく、ロックっぽくしようと思ったわけでもなく。あまりビートがガッと前に出る感じじゃないほうがいいんじゃないかと、なんとなく思ったんです。

――とはいっても、ちゃんとフロアでかけられるものになってるところがミソかなあと。

森野 そうですね。DJをやるときって、例えばロネッツみたいなオールディーズもかけるんですけど、いまのクラブ・ミュージックみたいにビートが立ってるわけじゃないのに、それでも踊れるじゃないですか。だから、ビートを強調するのは重要じゃないんですよね。グルーヴがあればいいという。

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掲載: 2009年02月12日 18:00

更新: 2009年02月12日 20:07

文/澤田 大輔