インタビュー

怒髪天

 今年で結成25周年を迎えたアラフォー4人組、怒髪天。先日、バンド史上最高の動員を記録したワンマン・ライヴ〈春の陣“スプリング・ファイト労働戦士決起集会”〉を大成功に収めたばかりの彼らが、待望のニュー・アルバムを発表した。〈生きること〉〈働くこと〉をテーマとした多彩なプロレタリアン・ロック満載の本作について、我らが兄ぃ=増子直純に話を訊いた。

──ニュー・アルバム『プロレタリアン・ラリアット』聴かせていただきました! ここまでブレのないアルバムって、最近、そうそうないですよね。

増子直純(ヴォーカル:以下、増子) そうだね。でも、俺の中では(先行シングルの)“全人類肯定曲”と“労働CALLING”ができた時点で、〈生きること〉と〈働くこと〉がアルバムの軸になると思ってたから。でも、いまのご時勢、普通に暮らしていたら、絶対こういう感じになると思うんだけど。むしろ俺からしたら、そうならないほうが不思議だよね。〈君の髪の香りが~♪〉とか、みんな、いまだにそんなこと歌ってたり。随分余裕があるんだなって(笑)。税金が上がったり、毎年、総理大臣が変わったり、不安定な時代のなかに生きているわけだから、必死に生きて頑張って働こうって、普通はそういう気持ちになると思うんだけど。

――そういう意味でも、『プロレタリアン・ラリアット』は、この時代に生まれるべくして生まれたアルバムだと。

増子 本当にそう思うね。イギリスでパンクが出てきたときもいまの日本と同じような状況だったと思うし。ただ、その時代のイギリスとあきらかに違うのは、いまの日本の若い奴らって全然、怒ってないんだよ。さんざん苦渋を舐めさせられてるはずなのに。最近流行の草食系男子とかさ、俺からしたら、ありえないよ! ここがサバンナだったら、あんな奴らは絶対に生き残っていけない! まあ、俺の食い物になってくれるわけだから、それはそれでいいんだけど。

――捕食しますか(笑)。でも、いまの若いコたちって、どこか最初から醒めちゃってるようなところもありますよね。

増子 醒めてるっつーか、なんだろうね。ナイーヴっていうのとも、また違うし。〈僕は僕なりに悩んでいます〉みたいな感じで、いつまでもウジウジしてて、結局、何もやらないんだから。そういう、やる気のない奴らの税金を高くしてやればいいんだよ(笑)。

―― 一方で、疲れ果ててる大人の背中を見て育っていくうちに、若いコたちが未来に希望を持てなくなっちゃったところも少なからずあると思うんですよ。

増子 それもあると思う。いまの大人って本当にツマらなそうだから。大人って本当はおもしろいのにね。俺らがガキの頃には、カッコいい大人がたくさんいて、そういう人たちの背中を見て、〈俺も早く大人になりたいな〉って思ったんだけどね。

──ちなみに、少年時代の増子さんはどんな大人の人たちに憧れていたんですか?

増子 やっぱり横山やすしには憧れたよね。俺もあんなふうに破天荒に生きてみたいと思った。あの人を見て大人ってスゲエなと思ったよ。あとはカツシン(勝新太郎)やショーケン(萩原健一)、松田優作とか。普段は破天荒なんだけど、みんな一芸に秀でていて、いざとなったら自分の腕一本で食っていけるっていう。そういうカッコいい大人に憧れたよね。

――みんなそれぞれのマイ・ルールにのっとって生きてる感じがしますよね。

増子 そう。自分の中にある掟に従って生きてるんだよね。それによって、世の中のルールと相容れないこともたくさんあったと思うんだけど。

──実際、みんな逮捕歴があるし(笑)。

増子 スケールがデカすぎて世の中の常識からハミ出ちゃうんだろうね(笑)。でも、昔は、そういう芸能人の破天荒な生き様をみんな楽しんでたところがあったけど、いまは、そういう時代じゃないから。

――ほんの些細な言動でもマスコミが過剰に大騒ぎしたり。ネットの住人が叩きまくったり。

増子 ショーケンがめちゃくちゃ叩かれたときに、時代が変わったんだなと思った。ショーケンがショーケンでいられない時代になっちゃったんだなって。そういう意味でも、カッコいい大人が生きづらい世の中なのかな。でも、俺らが若い頃には、芸能人に限らず、周りのオッサンたちも濃かったからね。普通に暴力の匂いがするというか(笑)。はっきり言って獣(ケモノ)だよね。

――獣ですか(笑)。

増子 現場で働いてたときもカッコいい大人がいっぱいいたよ。そういうオッサンたちは、愚痴もこぼさず黙々と働くじゃない。もう、ワッサワサとさ。稼いだら、そのぶん飲むし。金がなくても、若い奴らにオゴって、豪快にゲハゲハ笑ってたり。

――しかもその笑顔が……。

増子 本当に最高なんだよ! 日焼けしててね。頼りがいあるというかさ。こんなオッサンだったら、たとえ地球がひっくりかえろうが、家族を食わしていくんだろうなって思ったもん。いまはそういう存在があまりにもいなすぎる。それに、だいたい音楽だって、汗水流して働いてる人が聴けるようなものが少なすぎる。俺はもっと、聴いた人のエネルギーになるような音楽……米みたいな音楽がやりたいんだよ。

──確かにいまは、スイーツは充実してるけど、肝心な米不足に陥ってるようなところがありますもんね。

増子 おやつじゃ、毎日生きられないよ。音楽はもっと、人々の血となり肉となるべきものだと俺は思うから。

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掲載: 2009年04月30日 17:00

更新: 2009年04月30日 20:58

文/望月 哲