LEO今井
あきらかに浮いている。浮いていると言っては失礼かもしれないが、東京に生まれ、ロンドンと東京とで育ってきたこのLEO今井の音楽に初めて触れた時、そんなささやかな戸惑いを感じた。どこを探しても、少なくともいまの日本にはこういう音を鳴らすアーティストはほとんどいない。こういう音――それは、80年代の音楽からの影響がかなり明確に出ているカラフルでモダンなポップ・ミュージック。いまの若いリスナーにとってはリアルタイムではない、キッチュでデジタライズされた音像。しかしながら、80年代にロンドンで暮らしていた彼にとってはもともと馴染みがある、そんな80年代のポップスに対して、今回はより意識的にアプローチしてみたのだという。それがニュー・アルバム『Laser Rain』だ。
「ずっと90年代のアメリカのバンド、アリス・イン・チェインズとかサウンドガーデンとかが好きで、そういうロックの勢いと、80年代の音楽が持つ煌びやかなところを合わせた音楽を作りたいっていうのがもともとありました。だからこれまでの作品も自然にその影響が出ていたんですけど、今回は特に80年代の音楽をより意識してみたんです。実際にこのアルバムを作る時、80年代のアート・ポップみたいな音楽、ケイト・ブッシュとかフィル・コリンズとかデペッシュ・モードとかを聴いていたんです。なので自分のなかにある、そういう音楽が好きな部分をもっと出してみたくて」。
確かに、どこかロマンティシズムを感じさせるメロディーはスパンダー・バレエやデペッシュ・モードで、ふくよかなグルーヴはホール&オーツやブライアン・フェリーで……といった具合。なかにはダイレクトなバンド・サウンドにフォーカスした曲もあるが、総じて80年代サウンドの持つ空気感を落とし込んだものになった。さらには、いしわたり淳治やKENJI JAMMER、白根賢一(GREAT3)、木暮晋也(HICKS-VILLE)、ら曲ごとに異なるプロデューサーと組むことで一曲一曲の存在感を際立たせており、一枚のアルバムから何枚ものシングルがカットされていたあの時代を思い出させてくれるのもおもしろい。
「僕の知らない音楽やアイデアを出してくれるのはすごく刺激的だし、インスピレーションを得られるんです。というより、作業をしていても単純に話が通じるんですよ。例えば、“TAXI”という曲では木暮さんに〈ジョイ・ディヴィジョンの曲の、あのジャリジャリした鉄っぽいギターが欲しいんです〉って伝えたら、すぐにそういう音を出してくれました。いしわたりさんも僕にいろんな音楽を教えてくれましたね」。
日本語による歌詞に強い力点を置いた今作に対し、みずから「限りなく洋楽に近い邦楽(笑)」と立ち位置を語るLEO今井。「お昼頃に起きて、少しゴロゴロした後、夕方くらいからパソコンに向かって曲を作りはじめる」という超室内型制作スタンスから生み落とされたその作品は、しかしながら決して閉ざされた世界のなかだけに埋没しているものではない。今回は80年代をデフォルメしたような仕上がりになったが、日本とスウェーデンの血が流れる彼の引き出しはまだまだ無数にありそうだ。
「大きな夢はリック・ルービンにプロデュースしてもらいたいんですけど、北欧のミュージシャンと組んで何かをやりたいって気持ちもありますね。レフューズドっていう(ハードコア・パンク系)バンドともいっしょにやってみたいし、コンクリーツやロイクソップもいいですね。あ、ロイクソップやデペッシュ・モードって僕と同じEMIかあ。ちょっと声を掛けてみたいですね(笑)」。
PROFILE
LEO今井
81年生まれのシンガー・ソングライター。幼い頃からロンドンと東京を行き来する生活を送り、オックスフォード大学大学院に進学するも、2006年に本格的な音楽活動を行うため日本へ移住する。同年にファースト・アルバム『CITY FOLK』、2007年にミニ・アルバム『CITY FOLK 0.5』をリリースして高い評価を獲得し、〈サマソニ〉にも出演。その後シングル“Blue Technique”でメジャー・デビュー。2008年にメジャー・ファースト・アルバム『FIX NEON』を発表。〈RUSH BALL〉〈Sense of Wonder〉など多くのイヴェントに出演してさらに知名度を広める。2009年1月に先行シングル“Synchronize”を発表し、ニュー・アルバム『Laser Rain』(EMI Music Japan)をリリースしたばかり。