インタビュー

Boom Boom Satellites(2)

トラック自体にルールはない

――相変わらずストイックですねえ。さっき川島さんが低音を意識したディレクションを受けたと言っていましたけど、その意図は?

中野「言い方は良くないんだけど、前はある程度やさぐれていればリアルなヴォーカルになったということですよね」

――叫べがいいというか、パンクっぽければいいという感じですかね? 〈聴き手に火を点ける〉みたいな、全体のテーマを象徴する存在であればいいというか。

中野「そう。つまり普通の佇まいで済むことだったんですよね。ロック的というか。でも今回はもっと繊細なものを扱っている感じで、歌と曲が良いと判断されたらプロダクションを詰めていく。で、その間に歌詞を作ったりして、半年ぐらい寝かせてみるという。で、〈やっぱ、あんま良くなくね?〉とかね(笑)」

――突き詰めるという作業としてはやむなしとわかりつつも、難儀ですねえ(苦笑)。『EXPOSED』や『ON』なんかはテーマが決まっていることもあって、4つ打ちとか、サウンドのスタイルにある程度〈型〉みたいなものがありましたけど、今作のサウンドがもっと不定型で有機的な絡み合いをみせているのは、歌が軸になっているからなんですかね?

中野「そうですね。ヴォーカルが軸になった結果、トラック自体にルールはなくなった感じですから。『EXPOSED』自体が、〈ロック・バンドのスタイルでやるダンス・ミュージックというフォーマットにグランジのテイストをプラスする〉っていうのをテーマとして掲げてる部分があった。でも今回は、そういうミッションを自分たちで作らなかったんで。ホントにヴォーカル、歌がいい曲ってぐらいですよね。まあ、自分たちの引き出しのなかにある音楽だから、ものすごく新鮮なことや新しい試みをやろうということではなくて、子供の頃から聴いてたり、作ってきたりした音楽の一部が出ているだけなので、それをもっと丁寧に作ったっていう感じで。だからとにかく歌がないと、どうにもならない曲ばっかりだと思うんですよね。歌抜くと案外つまんないですよ」

――なるほど。でも、結果として新しいBBSの引き出しが開かれている感じがしますね。ところでタイトル曲ではゴージャスなストリングスが大々的にフィーチャーされていますが、それもディープなエモーションを補完する役割があったんでしょうか?

中野「いや、あったらいいなって感じでしたね。ディープな音像というのはミックスの段階で作ってますから。今回はテープ・エコーをいっぱい使ったんですよ。ピッチの揺らぎとかドヨーンとした部分とかですね」

――その表現されているエモーションの深さやダークさもあって、最初聴いた時にパっと頭に思い浮かんだのは『UMBRA』だったんですよね。でも『UMBRA』がある種、非常にわかりやすいダークさを持っていたのに比べて、本作はもっとアッパーだし、混沌としたなかから突き抜けるような快感も同時に表現されていますよね。幾重も層があるというか。

中野「『UMBRA』はパーソナルな音楽だから、ある意味、無責任にダークなものを垂れ流すというか、そういう感覚のアルバムですよね。いまやっているのは聴かれるための音楽だし、コミュニケーションを大切にしているから」

――そうなんですよ。実際ちゃんと聴き手がシェアしたくなるような構造になってますよね。ビートもメロディーも。

中野「自分たちが歳を重ねたぶん、音楽がコミュニケーション・ツールだってことを念頭においているし、大事にしているから。ダークなもの、ネガティヴなものを聴き手が捉えた時に共有する術、繋ぎ止めておくためのツールっていうのは、曲のなかに残しておくんですよ。それがビートだったり音像だったりするんだけど、それが『UMBRA』の頃とは全然違う」

――エモーショナルになった要因のひとつに冒頭で中野さんが仰っていた時代の影響もあると思うんですが、具体的にはいまの時代をどのように認識しているんでしょうか?

中野「それを言おうとすると陳腐になっちゃいますけどね。マスで言われがちな〈閉塞感〉とかそういうことになっちゃうから。希望がないし、未来が見えないし、ネガティヴなことがいっぱいある感じ。しかも、とうとう〈がんばれば何とかなる〉とも言えなくなったような社会でしょ」

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掲載: 2009年06月24日 18:00

更新: 2009年07月08日 18:08

文/佐藤 譲