RHYMESTER(4)
正しい結末の「ロッキー」になった
――でもさ、トラックもリリックもすごくエモいんだけど、意外に暑苦しい曲ではないんだよね。メッセージも強くくるけど、すごくカラッとしてるっていうか、さらりとしてる。なんか独特の質感がある曲だなーとは思う。
D「スカッと聴かせたいっていうのはあったからね。重くしていくのは実は簡単なんだよ。スカッとした聴き心地を与えるために、仕上がりをどうするかっていうのはすごく考えてた。それこそ、同じようなことを歌っていても“敗者復活戦”の逆っていうかね。サビで一筋の光は見せておくとか、そういうことなのかな。でもまあ、取りようによっちゃ〈がんばれソング〉だからさ、すごく危ないんだよ。下手なことしちゃうとありがちな感じになっちゃうからさ」
――微妙なさじ加減なわけだね。
U「あれですよ、もともと〈ロッキー〉は試合に負けたロッキーが誰の声援も受けずにエイドリアンと寂しく去って行くところで終わっていたのが、これじゃダメだってことになって、最後大盛り上がりで終わるように変えられてるでしょ? その差ですよ、その差。〈エイドリアーン!〉で終わってるんだよ、今回は。だからこそ普遍的なパワーを持つっていうかね……エイドリアンですよ! エイドリアン・パターンの、正しい結末の〈ロッキー〉になったんだよ」
――じゃあ“ONCE AGAIN”はこのへんにして、カップリングの“付和Ride On”。これもすさまじくRHYMESTERらしい曲だとは思うんだけどね。さっきJINくんは前から温めていたアイデアだって言ってたけど、最初はタイミング的にもこの夏のフェス用にキラー・チューンを作ったのかなって思ってた。
U「あ、でもそれもあるよ」
――どういうところからコンセプトができあがっていったの?
J「これは絶対盛り上がるビートだからお願いします!みたいな」
U「実はレコーディングする前日まで固まってなくてさ、Dと居酒屋に行って呑みーティングしたんだけど……そうしたら〈宇多さんが10年ぐらい前に出した“付和Ride On”ってタイトルがあるよ〉って言われてさ。で、〈日本の心ですよ!〉とか〈和を持って尊しと成す、なんてね!〉とか言って最初はふざけてたんだけど、次第にけっこういいかなってことになってきてね。ライヴとかで空気読んでちゃんと盛り上がって!みたいなさ。気まずい思いしたくないでしょ?みたいな」
――〈ええじゃないか〉だよね。
U「そう、〈ええじゃないか〉」
D「ビートがあれだからねぇ……JINは知らないと思うけど、俺が持っていったもうひとつのアイデアに〈サマー・バーゲン〉っていうのもあったんだよね。いらっしゃいいらっしゃい!みたいなさ、大安売り感」
――“This Y'all That Y'all”とか“けしからん”とか、〈ええじゃないか〉系もRHYMESTERの得意とするところだよね。
U「これだけ強制的に踊らせるような曲だから、ある種アイロニカルにとれるようなところもあるんだけど……別に気になんねぇんじゃね?っていう(笑)。聞こえねぇんじゃね?とか(笑)。で、そういう目論見で作ったんだけど、実際にライヴでやると本当にそうでさ。お前らバカじゃないの?っていう。もうDとステージで指差しながら笑ってるんだよ、盛り上がりすぎちゃって」
D「最初のライヴで笑ったもん。いやあ、人間って弱いなあって(笑)。人の弱みにつけ込んだグルーヴですよ」
――わかりました。アルバムの制作もだいぶ進んでると思うんだけど、これもやっぱりDくん監督体制で作ってるんだよね。いろんなプロデューサーからビートを募ってるみたいだし、これまでとちょっと状況が違うと思うんだけど、進行具合はどう?
D「いままでといちばん違うのは、まず俺の精神状態が健康」
――あー、自分でビートを作ってないから?
D「そう。ラップとディレクションに徹すればいいからさ……これが楽しい!」
――エミネムがまったく同じこと言ってたよ。こないだの『Relapse』ではほとんどのトラックをドクター・ドレーに任せてるから。
D「それがあるからさ、進行がどこが誰の責任かはっきりしてるんだよね。いままでよりもスムーズに行ってると思うよ」
U「大変なところもあるけどね、ハードルは上がってるわけだからさ。でも、もちろんいままでどおり悩んだりはしてるんだけど、悩みさえもちょっと客観視できるっていうかね。いま俺はこういうことで悩んでるんだ、って客観視できる体制なんだよ。ひとりで勝手に悩まないで済むというかさ。煮詰まるにしても俯瞰できてる」
――でもホント楽しみだなー。どんなプロデューサーのどんなビートが採用されるのか……。
U「いやもう大変だよ! ほら、これだけのトラックをひとつひとつ聴いていってさ……(と、リストを見せてもらう)」
――うおーっ!
U「しかもさ、やっぱり全部いいんだよ!」
――まあね、みんな気合いも入ってるだろうからなー。
J「俺らがビートを募ってるって噂を聞きつけて送ってきたりとかもあるしね」
U「そういう意味ではすごく贅沢な選び方してると思うよ」
D「ただ、ある意味残念な情報としては、誰のビートでもRHYMESTERになっちゃう(笑)。意外とね」
U「ていうか、むしろRHYMESTER色が強くなってしまう。俺らの解釈ってわりとすんなり出やすいみたいだし、ストレートでわかりやすくっていうのは全体を通じてあるから、もともとのRHYMESTERのコンセプトに近いものになるんだよね。日本語ラップのスタンダードを作りたいっていうのがあったわけだからさ。だから、ひょっとするとラップに関してはいままででいちばんRHYMESTERっぽいのかもしれない」
D「何がRHYMESTERなのか、っていうのが見えやすいアルバムになると思うよ」
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