チーナ 『Shupoon!!』
ピアノ、ヴァイオリン、コントラバスを操る女子トリオを中心に結成されたニューカマー・バンド、チーナがファースト・ミニ・アルバム『Shupoon!!』を完成させた。クラシック楽器に対する固定概念から解き放たれようと格闘とした果てに彼女たちが手に入れたのは、アヴァンな装いながら非常に風通しの良いクラシカル・ポップ・ミュージック。「これが私たちのロック!」とハニカミながらも胸を張るメンバー4人(ドラムスの松本和哉のみ欠席)に話を訊いた。
広いイメージの曲にしたい
――すごくインパクトのあるジャケットなので、相当迫力のある女子を想像してましたが……(全員爆笑)。
椎名杏子(ヴォーカル/ピアノ)「普段はホントに静かなんですけど、〈演奏し出すと変わる〉ってけっこう言われます。自分たちではあんまりわかんないんですけど(笑)」
――全員が豹変すると(笑)。
椎名「はい(笑)」
――(笑)そんなチーナは、結成はいつ頃なんですか?
柴由桂子(ヴァイオリン)「2007年の10月に」
――メンバー5人が集まったきっかけは?
椎名「私がまずピアノで弾き語りをやってたんですけど、ひとりでやるのがつまんなくなってきちゃって、大学の知り合いだったベースとヴァイオリンにサポートで入ってもらったんです。ギターとドラムも同じくサポートで。でも、そのうちにサポートの域を超えてしまったというか、ヴォーカルにヴァイオリンがついているというよりは、もう同等ぐらいになってきちゃって、これはサポートっていうよりバンドだよね、って」
――曲はどうやって作ってるんですか?
林絵里(コントラバス)「最初はピアノ弾き語りのデモをもらって、それぞれが自分のパートを作って合わせていく感じですね」
椎名「私はピアノのことをいちばん知ってるし、ベースはベーシストがいちばん知ってるから、個々の持ってる力を最大限に活かすためにも、それぞれが自分のパートを作ってくる、っていう感じでやってます」
――ヴァイオリンがいる編成っていうのは珍しいですよね。ベースもコントラバスなので、指弾きと弓の使い分けがあるし。
林「実は私、エレキ・ベースは弾けないんですよ(笑)。あと、ジャズをやってたとかでもなくて。でも、だからこそのこだわりがあって、ジャズっぽいピチカートの感じではなく、コントラバスとしてできることをやっていきたいなと思ってます」
――ギターとドラムのお2人はどういう誘いを受けたんですか?
西依翔太(ギター)「僕は出会いがレコーディングだったんですけど、いいバンドだなって思って、〈いっしょにやれたらいいね〉って話をして。僕も元々はライヴのためのサポートだったのが、どんどん回数が増えていまに至ってます」
――チーナに入る前の3人に対する印象はどうでした?
西依「けっこう素朴というか、いい意味で田舎っぽい(全員笑)。わからないことはわからないって言うし、全然気取ってない感じで」
椎名「彼はエンジニアだったんです(笑)」
西依「そもそも〈バンドやろうぜ〉みたいな空気のグループじゃなくて、ただ素直に音楽をやっているっていう自然体な感じがありましたね。声も独特だったし、そういうところに惹かれたというか」
――うん、チーナの音楽にはその自然体な雰囲気がよく出ているというか、野外で聴いたらハマりそうな、オーガニックで風通しの良い空気感があると思います。
椎名「広いイメージの曲にしたいな、っていうのはいつも思ってて。あと編成も、弦は〈刻む〉っていうよりは〈流れる〉ものだし、曲を急にすごい壮大にしてくれる力があるので、風通しの良さみたいなものはあるかもしれないです」
――バンド編成になってから、ご自身の曲の作り方も変わってきた?
椎名「そうですね。自分ひとりでやってた頃は、やりたいこともやれないって感じだったんです。ゆっくりめな、バラードみたいな曲を歌ってたんですけど、バンドになるとホントにいろんなことがやれて、しかも変な楽器がいろいろあるから、これやったらみんな楽しいだろうな、っていう曲の作り方に変わりましたね。あとは、畑がクラシックだった私たちの音楽を、クラシック畑じゃない男の子たち――後から入ってきたメンバーが〈それでいい〉と言ってくれたのがすごい嬉しかった。そこでお互い影響し合えたっていうのも、いまの〈チーナ・サウンド〉に繋がってるんだと思います」
おっきい音だけがロックじゃない
――出自がクラシックっていう個性を活かしつつも、バンド・サウンドになっている。さらに言えば、ロック・スピリットを感じる部分もある。クラシック畑の3人は、そこから別のところに逸脱していきたいとか、この編成でロックをやりたいとか、そういう意識はありました?
椎名「ロックがどう、っていうよりも、最初はみんな、コンプレックスがあったと思うんです。ヴァイオリンは求められるものがすごい限られてたり」
柴「うん」
椎名「ストリングスはどこかにサポートに行っても、〈キレイに弾いてればいいから〉って言われる。ベースだってもっといろんな表現があって、例えばソロとかだってできるのに、そういうことをやれる場がなかったり。私は私で、アコースティックな弾き語りをやってた頃、急に〈ウワァ~!〉とかいう声を出すと、〈何がやりたいんだろ? この子〉って思われてしまったりとか、そういうコンプレックスがあって、それをどんどん自分たちでなくしていきたいっていう気持ちがあったんですよね。そういうのもあって、ドラムもパーカッションじゃなくドラム・セットになって、ギターも最初はアコギだったんですけどエレキになって……別にロックをめざしてたわけじゃないんですけど(笑)、音楽ってキレイなものだけじゃない、もっと強い音に絶対できるんだ、って開拓していった結果、周りから〈ロックだね〉って言われるようになってきて。それがものすごい嬉しくて、最近は〈ロックを意識してやってるんです〉みたいなことを言うようになったんですけど(笑)」
――楽器に対する固定概念からどんどん逸脱していく過程がロックなんじゃないんですかね?
柴「最初にサポート始めた時は、いままでの経験で〈こういう曲にはここから駆け上がりでダーッと盛り上げて……〉っていうのがあったんですけど」
椎名「ありきたりな感じね(笑)」
柴「うん。でも(椎名に)〈そんなキレイな音じゃなくていいんだよね〉って言われた時に、〈あ、この楽器をそういうふうに扱っていいんだ〉って、新しい発見があったんですね。いままではキレイな音であることが絶対で、〈奏でる〉っていう感じの表現方法が主流でやってたんですけど、〈ヴァイオリンで汚い音か!〉っていう。ただ汚なければいいっていうことではないんですけど、激しさを出したりとか、ヴァイオリンってけっこうおもしろいことができるんじゃないかなと思って。やっぱりアコースティックな楽器を使っているので、ハウリングを起こしやすかったりとか、音量がどうしても出切らなかったりとか、いろんな問題にどんどんぶつかるんですけど、それをなんとかしようと考えていくのがすごく楽しくって」
――チーナのサウンドなら、ハウリングとか入っててもいいんじゃないですか(全員笑)?
柴「(笑)そうですね。ガツンと出したいっていうのはありますね。そこでエレキに頼ってしまうのではなくて、使っている楽器の可能性をどれだけ広げられるか、で」
椎名「おっきい音だけがロックじゃないっていうのは、よく言ってます(笑)。チーナは楽器編成的にもレンジの広い音を出せるので、その表現でなんとか……暗さとか(笑)、強さとかも出すようにみんなで日々格闘してるんですけど」
ホントのことじゃないと歌えない
――そうやって格闘することで曲を作って、ライヴを重ねて、今回のファースト・ミニ・アルバム『Shupoon!!』が出来上がったわけですね。
椎名「はい」
――初めての全国流通盤ではバンドのどういう部分を表現したかった?
柴「生きてる感じ、生モノの感じ、というか。すごくキレイで上手で、〈よくできました!〉っていうCDではなくって、個人で言ったら弓のあたるスピードだったりとかからニュアンスで伝わるもの、生っぽさをすごく伝えたかったですね」
――この7曲は、そういう観点で選ばれたもの?
椎名「そうですね、選んだになるのかな? さっきの話と繋がるんですけど、アコースティックからロックになっていった曲たちっていうか(笑)、チーナが成長していく時のターニング・ポイントになった曲たちを入れた感じです。エネルギーみたいなものをこの編成で感じてほしい、っていうのはすごいありました」
――タイトルもかなり抜けが良いですが。
椎名「なんか、タイトル考えようってなった時に、最初から擬音しか思い浮かばなくて(笑)。他にもいろんな擬音があったんですけど、聴いてもらう人たちに〈シュポーン!!〉って飛んでほしいっていう気持もあるし、自分たちがいろんなものを打ち破っていきたいっていう〈シュポーン!!〉もあるから、自分ではすごく相応しいタイトルをつけられたと思ってるんですけど……(笑)」
――他のメンバーは違うと。
椎名「若干……(笑)」
西依「いや、気に入ってますよ。するめネームです(笑)。最初にタイトルを聞いた時は〈この人ふざけてんのかな?〉って若干思ったんですけど、帰って考えてるうちに〈いいかも〉みたいに思えてきて、次に会った時は〈いいよ! このタイトル!〉〈でしょ!?〉って感じで(笑)。意味のない言葉なんで、そこからイメージを膨らませることができるし、いいなと思って」
――歌詞も、歌ってることが独特ですよね。先ほどのサウンドの話じゃないですけど、〈キレイなところだけじゃない自分〉を真っ正直に出しているというか。
椎名「詩に関しては、よく〈ひねくれてる〉って言わるんですけど、自分では全然そういう気はなくて。ホントに言っていただいた通りで、日常生活のなかにはそんなにカッコイイことなんてないし、素直に自分と向き合おうと思って書くとこうなってしまう。あと私、人の曲を聴く時に全然歌詞を聴いてなくて、メロディーばっかり追ってるので、みんなそうだと思ってて。だから、歌詞なんか誰も聴いてないだろうし、こんなことも言っちゃっていいよね、って感じで書いてたら、みんながわりと〈歌詞がね……〉って言ってきて、〈ヤバい! 歌詞聴いてたんだ!〉と思って(笑)」
――弾き語りから始まってますけど、それは伝えたいことがあったから歌ってた、っていうんじゃなかったの?
椎名「いやぁ~、それはなくて」
――ないんだ(笑)。
椎名「ああ、でも確かに、ちょっとアンチなところはあったのかもしれないです。人の曲を聴くと、みんな、そんなこと絶対思ってないだろうっていうような、よくありそうな言葉ばっかり歌ってるな、って。だからこそ、ホントのこと言わないと誰も聴いてくれないって思うし、逆にホントのことを言わないと自分もおっきい声出して歌えないっていうのがあるので……真面目なんです(笑)」
――そういう言葉もチーナの音楽の世界観を形成するひとつの要素ではありますよね……と言いつつ、1曲目“トントンねぇねぇ”はまさに〈トントンねぇねぇ〉だけなわけですけど(笑)。
椎名「そうですね(笑)。歌詞のことを言われるようになって……やっぱ、ひねくれてるのかな? 〈歌詞、けっこういいね〉って言ってくれる人が増えた時に、〈いや、歌詞だけじゃない。音楽がいいんだ〉っていう気持ちを込めて、あえて歌詞は〈トントンねぇねぇ〉だけっていう曲を作ろうと(笑)」
――(笑)それはちょっとひねくれがあるかもしれないですね。ラストの“マトリョーシカ”の歌詞とか、視点が本当にユニークだと思いますし。他のメンバーのみなさんは、どう思われました?
柴「なんか、ありがとうって思いました。ここで〈良かったね〉って言ってくれることってまずないじゃないですか」
――〈君がどんなに泣いたって/誰もわかってくれないよ/良かったね〉ですからね。
柴「すごい救われる一言だな、って思って、聴いた時に〈歌詞がいいよ~〉って言って」
林「私も椎名といっしょで、他のバンドさんの歌詞をいちばんに聴くことはあんまりないんですけど、この曲は私のなかでは衝撃の1曲で。“マトリョーシカ”を初めて聴いた時は〈こいつ、ホントにすごい曲作ってきた!〉と思って(笑)」
椎名「“マトリョーシカ”は、ネガティヴなようでいて、ホントはポジティヴな曲ですね」
――〈君〉を全肯定する歌ですからね。
椎名「はい。で、その曲は、間奏をあけてまた同じ言葉を言うんですけど、みんなのアレンジとか構成の力で後半は違ったように聴こえる、っていうおもしろさが出たらいいなと思ってて」
――言葉とサウンドの関係性を考えて作ってる。
椎名「言葉ではうまく言えない気持ちを音楽で表したいっていうのがあるので、その曲はホントにそこを出せたらっていうのでがんばったんです。間奏もすごい長いし、みんな相当狂ったように弾いてるんですけど(笑)、そこでなんとか違った色を出したいなっていう」
――そういう椎名さんの意図をもとに、みんなでがんばった?
柴「狂ったように、っていう指示はあったんです(笑)」
林「間奏の最後は半狂乱で、って(笑)。でも、いま言ってたような深いことは聞いてなかった。そうだったんだ(笑)」
個々の楽器でどこまでできるか
――(笑)まあ、“マトリョーシカ”では、みなさんのいい半狂乱ぶりが聴けると。そこには、先ほど話に出た〈楽器の可能性の開拓〉みたいなところが反映されていたりもする?
柴「そうですね。まず〈半狂乱〉って言われたところで、半狂乱で弾いたらいいのか、半狂乱の音を選んだらいいのか、っていうのをまず考えて、これは音だな、と。間奏の最初の部分とかは一個一個の音を拾おうとすれば拾えるんですけど、おっきいうねりがあって、そのあとに〈バン!〉って弾けるような感じを出したかったというか。最後は、声は出さないですけど叫んじゃおう!みたいな、楽器を使ってどこまでできるか、っていうところはすごく凝りましたね」
――そういうふうに特に凝った部分は、他の曲にもあります?
柴「〈木の音〉っていうのがヴァイオリンの持っている特性なので、“blue”ではどこまで木を響かせた音を出せるかっていうところで、音飾をすごいこだわって作りました」
――〈木の音〉って?
柴「ヴァイオリンって上と下に板があるんですけど、そのなかで響くんですよね、音が。その響きを出せる音――倍音がうまく使える音っていうのを選んで、あとこの曲はベースとも話し合いながら作ったので、きれいなアンサンブルが出るようにこだわりました」
――では、コントラの聴きどころは?
林「私も同じで、“マトリョーシカ”の間奏の部分ですね。半狂乱って言われてどうしよう?って思いながらピアノと歌だけのデモを何回も聴いてて、〈あっ、グリッサンドが下がってきたらおもしろいかもしれないな〉と思って、最後に〈トゥゥゥ~〉っていうのを入れました。レコーディングでもけっこう渾身のテイクがとれたと思ってるので(笑)、気に入ってます。あとは全体的に楽器の音だけじゃなくて、あんまり音程がない音――フワ~ッていう感じの音を使ってたり。 “blue”の最初のほうとかそうなんですけど、そういうことができるのもコントラバスの特性なので、ポイントだと思ってます(笑)」
――ギターはどうですか?
西依「僕はメインのギターの他にマイクロコルグっていう鍵盤も使ってたりするので、ギターでどこまでできるかっていうよりかは、チーナの音楽をより良くするにはどの音が必要だろう?っていうところでフレーズないし音を考えたりしてますね。音の高さ的にもヴァイオリンがいちばん近い楽器なんでそこを意識しつつ、ピアノも下から上まで出してくるんで、その2人をメインに考えて、ここはピアノと近付こうとか、すごいマニアックなところで同じことを弾いてみようとか(笑)、そういう感じですね」
椎名「ニスみたいなんだよね」
――ニス?
西依「そうですね。みんなの穴埋めをしてる(笑)」
椎名「木の箱を作る時、ニスを塗るとすごいキレイになるじゃないですか(笑)」
西依「そう、最終仕上げではないですけど、そういうイメージを持ってもらえると嬉しいですね」
――じゃあ最後に、そんなニス役の西依さんの聴きどころを伺って締めましょうか。
西依「ギターでそれを言うのならば、“マトリョーシカ”のいちばん最後の〈キキッ!〉っていう音ですね。あれ、ホントはしっかり止めることになってたんですけど、止めようと思ったら〈キキッ!〉って鳴っちゃって〈ヤベッ!〉って思って。でも、プレイバックで聴いたらそれが良くて、堀さん(ディレクター)に〈あれ消さなくていいんじゃないですか?〉って言ったら、〈残そう〉ってことになって(笑)」
――迸る勢いというか、先ほど椎名さんがおっしゃってた〈本作に込められたエネルギー〉がそこに凝縮されてるとか?
西依「そうですね。あそこがすべてです(笑)」
椎名・柴・林「ええ~(笑)!?」